別冊文藝春秋

映画の“魔法”に魅せられたマチルダと、ヴィヴィアン。戦後ハリウッドと現代ロンドン、それぞれの場所で夢見るふたりの愛と冒険の物語

文: 深緑 野分

深緑野分「スタッフロール」

「新連載コメントを書いて下さい」と依頼を頂いて、さあ困った、とパソコンの前で頭を抱えている。何しろ今回連載をはじめる小説のテーマには、個人的な思い入れがありすぎるのだ。書きたいことが多すぎてはち切れそうだから、小説にしてみたわけで、つまり読んで下さいとしか言いようがない。

 テーマとはすなわち映画、そして特殊効果と視覚効果、CGについてである。

 一九四六年のアメリカに生まれたマチルダは、映画の特殊効果に魅せられていく。特殊効果、スペシャル・エフェクトとは、俳優をモンスターに変身させる特殊メイクや、ラテックスやスチロールなどを使ってエイリアンやドラゴン、架空の城や山を現実に生み出す、具現の魔法のことだ。

 しかしこの魔法は近年ではどんどん衰退し、有名な天才アーティストが引退したりなど、住み処が少なくなっている。なぜなら視覚効果、ヴィジュアル・エフェクトが登場したからだ。

 一九八三年にイギリス南部に生まれたヴィヴィアンは、二〇一五年、CGモデリングアーティストとして、VFXやCGを制作するロンドンのエフェクト・ハウスに勤めている。特殊効果全盛の映画を観て育った世代だから、デスクの上にはR2-D2やゴジラのフィギュアが置いてあるのだが、仕事は仮想空間の中にイメージを出現させ、現実にはあり得ない魔法をかけること。

 特殊効果と視覚効果、そしてCG。どれも映画の魔法だ。しかしこんな言葉は陳腐で、本当のことなのに、うまく伝えられない。だから小説として昇華することにした。異なる立場の主人公がふたり。彼女たちはいったいどこで、どのようにして交わるのか。

 ともあれ、作者の口上はこのくらいにしよう。面倒な話はこれでおしまい。

「別冊文藝春秋 電子版9号」より連載開始

別冊文藝春秋 電子版9号(通巻325号/2016年9月号)

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発売日:2016年08月20日

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