特集

『イニシエーション・ラブ』徹底分析
小説の舞台と映画ロケ地を歩いてみた

文: 「本の話」編集部

いよいよ初デート 待ち合わせは静岡市内の定番スポット

 初デートの日、鈴木は早めに家を出た。

時刻が午後五時になったのを確認したときには、ついに辛抱できなくなり、まだ早いとは思いつつも出掛けることにした。バスでセンターまで行き、さらにそこから徒歩で青葉公園へと向かう。待ち合わせ場所に着いたのが五時半で、約束の六時までにはまだ三十分もの間があった。(P50~51)

新静岡セノバ:静岡市葵区鷹匠1-1-1

「センター」とはどこだろう? 実は、当時は静岡鉄道新静岡駅の駅ビルが「新静岡センター」というショッピングセンターだった。その後に改築され、2011年から「新静岡セノバ」となっている。5階には丸善&ジュンク堂書店も入っているおしゃれなビルだ。

 JRの静岡駅にもバスターミナルはあるが、待ち合わせの場所に近いのはこちら。

「静岡市の人は移動にバスを良く使います。静岡鉄道の駅とバスターミナルが一緒になったこの場所は、人が集まって去っていく。ちょっと特別な場所です」(松本さん)

青葉通り:静岡市葵区呉服町2丁目。幅18m、長さ520mの緑地帯。大道芸ワールドカップ(11月初旬)の会場ともなる。写真の噴水「ZEN」は中央のオブジェがゴロンゴロンと転がる。

「青葉公園というのは、青葉通りのことでしょうね。ベンチも多く、緑がゆたかで、静岡市民のデートスポットです。かつてはこの通り沿いに静岡朝日テレビがありましたし(98年移転)、近くには映画館が建ち並ぶ七間町映画館街もありました」(松本さん)

「クリスマスにはイルミネーションがきれいです。私の結婚指輪も、この近くのお店で買いました。突き当たりの常磐公園の噴水は、夜になるとライトアップされます。周囲には飲食店もたくさんありますよ」(高木さん)

常磐公園:静岡市葵区常磐町3-1 。4月~9月は18時から21時(それ以外の季節は18時から20時)の毎正時に、照明と音楽を合わせたショーが楽しめる。

 初デートにスーツ姿で望んだ鈴木が、最初はマユに気付いてもらえなかったるするところも初々しい。近くの「マクドナルド」に入り、コーラとアイスコーヒーで乾杯した2人。

マクドナルド静岡呉服町店:静岡県静岡市葵区呉服町2-1-10

マクドナルドを出たのが午後七時前で、僕たちはとりあえず駅のほうに向かって歩き出した。もうすでに日は落ちていて、空が暮色に染まっている。谷島屋書店がシャッターを半分下ろしていた。次の角を右に折れ、ゆっくりと歩きながら、僕たちは二軒目をどこにしようか話し合っていた。(P58)

「谷島屋書店」は静岡県内に20店舗以上を構える老舗の書店チェーン。浜松本店は創業が1872年(明治5年)。本の話WEBの連載「週末の旅は本屋さん」で紹介したこともある(「140年の矜持を受け継ぐ 谷島屋浜松本店は常に新しい」)。

谷島屋書店:静岡市葵区呉服町2-5-5。浜松の谷島屋書店の支店として1924年(大正13年)に開業した老舗書店。2階に向かう階段にある「週刊新潮」のレリーフが印象的。

 この日初めて入った「ジョルダン」は、2人のお気に入りの店になる。

「ここ、けっこう良かったね。料理も美味しかったし」
「金ギョーザとかね。また次回も来ようか」
「それでもいいけど、ここはアジトにして、他もいろいろと試してみようとかって思わない?」
(P65~66)

「ジョルダンという名前の店はもうありませんが、同じ系列の炉囲土が営業しています。半地下という設定とはちょっと違いますが、店を出たら目の前にホテルがあったという位置関係からもここだと思うんですよ」(高木さん)

「最近、金ギョーザが復活したそうです」(松本さん)

 開店時間を待って訪ねてみると店内に「復活 金魚~ザ」の文字が。早速、店長の秋山亜希子さんに聞いてみた。

これが「金ギョーザ」の実物。中国料理の点心に似ている。

「金魚~ザは私の母が大学の食物学科で中国人の先生に、『お嫁に行ったらこんな料理も作ってさしあげなさい』といって教わった料理。人気メニューだったので、つい最近『あれ、復活させたほうがいいよね』という話になったんです」

 と、映画公開のタイミングとは関係ないようだ。しかも、80年代後半にあった店の名前は談楽だという。本当に「ジョルダン」のモデルと考えていいのだろうか?

「『ジョルダン』の名前は、静岡駅ビルのパルシェに入っているレストランに使っています。ダングループといって店名に『談』をつけることが多いんですが、『ジョルダン』グループと呼ぶ人もいます。乾先生が、ちょっとだけ設定を変えられたんじゃないでしょうか」

炉囲土:静岡県静岡市葵区両替町2-6-10

 では、当時の談楽はどんなお店?

「男性店員ばかりの、威勢の良い居酒屋でした。それこそ学生が入りやすい気軽なお店。今は大人向けの落ち着いた雰囲気です。いきなり学生のカップルが入ってくることはないですね」

 でも、あの時代から約30年。今の鈴木やマユならば、こうしたお店のほうが似つかわしい年齢だろう。

「『イニシエーション・ラブ』の本を持ってくるお客さんは、時々いらっしゃいますよ」

 とのこと。当時の様子を聞いているうちに、映画公開期間中に限り、映画帯を巻いた『イニシエーション・ラブ』(文春文庫)を持って行くと、お一人あたり飲み物を1杯サービスしていただく約束を取り付けた。購入レシートも一緒に持って行こう。

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イニシエーション・ラブ
乾くるみ・著

定価:本体580円+税 発売日:2007年04月10日

詳しい内容はこちら

イニシエーション・ラブ特設サイト


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