特集

『イニシエーション・ラブ』徹底分析
小説の舞台と映画ロケ地を歩いてみた

文: 「本の話」編集部

クリスマスイブはホテルで過ごすのが80年代の定番

 季節は巡って、11月には鈴木の自動車免許も取れて、初ドライブで静岡市内の大浜海岸へ海を見に行き、初ラブホテルへ。そこで、クリスマスイブの話が出た。80年代後半といえば、カップルがクリスマスイブを高級ホテルで過ごすスタイルが大流行していた。なにしろ世の中は、後にバブルと言われる好景気の最中。たった一夜の予約を巡って、何カ月も前から争奪戦が繰り広げられていた。

ダメで元々だと開き直って、僕が帰宅後すぐに電話を掛けてみた。最初に掛けたのはターミナルホテルだった。すると、ちょうどキャンセルが出たばかりで、スカイレストランでのディナー二人席と、ダブルルームが一室空いているという。僕はすぐに予約を申し込んだ。非常にラッキーだった。(P122~123)

ホテルアソシア静岡:静岡市葵区黒金町56。ターミナルホテルから名称が変わっている。

 確かにそれは幸運というほかない。クリスマスイブに待ち合わせた2人の姿は、マユが毛皮のハーフコートに黒のワンピースドレスと同色のハイヒール。

僕のほうは丸井で買ったブランド製のスーツ姿で、マユほど気合が入っているとは言えないだろうが、まあ初デートのときよりはマシな格好をしていると言えるだろう。(P124)

 80年代後半のファッションと言えば、DCブランドもののスーツ。「丸井」のバーゲンには長蛇の列ができた。赤いカードのリボ払いのために、いくつもアルバイトを掛け持ちする大学生もいたものだ。

丸井静岡店:静岡市葵区御幸町6-10

 それにしても、なぜ鈴木はまず「ターミナルホテル」に電話をしたのだろうか。

「今はJRの駅の南側も開発が進みましたが、当時は静岡市の中心は駅の北側。当時、静岡の高級ホテルといえばここでした。といっても、私はその頃まだ小学生ですが(笑)」(松本さん)

 現在の名称はホテルアソシア静岡だが、建物は変わらない。なお、映画のクリスマスシーンの撮影は、茨城県つくば市のホテルで行なわれている。

静岡に通う鈴木がマユと歩いた街並み

 side-Bに入ると、鈴木とマユは遠距離恋愛となり、鈴木は週末になると愛車のシティ(映画ではスターレット)で静岡のマユのもとに帰っていく。

翌日は朝イチで帰るつもりだったが、そのままずるずると午前中を過ごしてしまった。昼にはマユと一緒に車で出て、緑ヶ丘の「あさくま」で食事を取った。ステーキ肉は目には美味しそうに映るのに、喉をなかなか通ろうとはしてくれない。(P167)

 節約のために一般道を使うと片道5時間はかかる。体力的にはかなりハードだ。それでも、

昨日から今朝にかけて、マユとともに過ごした一日。僕にはあれが必要なのだ。そのための努力ならば、払うのを惜しむつもりはない。(P168)

 静岡に帰れば一緒に買い物に出掛けるなどして過ごした。

土曜日の午後なので、呉服町通りは途中から歩行者天国になっていたが、雨天なので人の出はあまり多くない。歩行者天国区域の開始を示す車止めの柵を越えてすぐの右手に、一区画を占領する形で伊勢丹デパートがある。(P182)

静岡伊勢丹:静岡市葵区呉服町1-7

 静岡市内のデパートは他にも松坂屋静岡店があるが、マユの自宅から近いのは「伊勢丹」。なお、デパートでの買い物シーンは、東京都八王子市の「CELEO」(東京都八王子市 旭町1-17)で行なわれた。

マユが「あ、ついでに本屋さんもちょっと見ていきたいな」と言い出して、結局傘を開くことなく隣の吉見書店にも寄る羽目になった。彼女は三十分ほどかけて文庫本を二冊買った。僕はその間、一階の雑誌コーナーで立ち読みをして時間を潰していた。(P182)

吉見書店:葵区七間町3

 スマートフォンどころか携帯電話もない時代、本屋さんはとても大事なデートスポットだった。

「吉見書店」のあったビルの1、2階は現在は別のお店になっていたが、外商部が4階で営業している。外壁のレリーフに名前を残しているので見上げてみよう。

 2人はまた、「三保の海岸」までドライブしたり、「清水港」に出入りする船を眺めることもあった。

三保の松原から見る富士山
清水港:三保の松原まで往復する遊覧船が出ている。右奥の建物は旧国鉄清水港駅跡にできたエスパルスドリームプラザ(静岡市清水区入船町13-15)。清水駅から無料のシャトルバスが出ている。

 この後、2人の恋の行方がどうなるのか、そしてなぜ『イニシエーション・ラブ』が衝撃的なミステリー小説と言われるのかを知りたければ、ぜひ作品を読んでいただきたい。また、「映像化不可能」と言われた小説がなぜ映画化できたのかは、映画館で確かめて欲しい。

【次ページ】あのバー、あの道……映画ロケ地はどこ?

イニシエーション・ラブ
乾くるみ・著

定価:本体580円+税 発売日:2007年04月10日

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イニシエーション・ラブ特設サイト


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