インタビューほか

公開対談
浅田次郎×林真理子
「小説講座・人物造型の舞台裏」

第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL

菊池寛が昭和10年に創設した芥川賞、直木賞が150回を迎え、記念イベント「芥川賞&直木賞フェスティバル」が丸の内・丸ビル1階「マルキューブ」にて2014年3月1〜2日に開催されました。 このイベントの「トリ」をつとめられた、林真理子さんと浅田次郎さんによる対談を再録してお届けします。

短編小説「ラブ・レター」秘話

浅田 そのころのことで思いだすのは、『蒼穹の昴』は講談社の保養施設に缶詰めになって書いていまして、一気に書こうと意気込んで入ったんですが、考えてみたら1800枚を一度に書けるわけはないんですね。書いているうちに飽きちゃって、ガラッと窓を開けたら、隣に中国人ばっかりがいるバーが見えて、そこの2階に住み込み用の二段ベッドがギッシリあるのが見えたんです。で、向こうから手を振るんですよ。べつに僕はその怪しいバーに行ったわけじゃないんですよ、断っておきますが(笑)。気分転換に違う小説を書こうと思って、それで「ラブ・レター」っていう短編小説を書いた。まさに見たまんまの小説。この短編が『鉄道員』に収録されて、それが直木賞を獲った。だいたい缶詰めにされてるときは、缶詰めにされている原稿って書いてないですね。

――そういう不実な方がよくいらっしゃるんです。われわれが一生懸命お待ちしているのに、全然関係ない原稿を書かれている。

浅田 この司会の人は、若いころ、僕の担当だったんですけどね、文春という会社には缶詰めにする部屋があるんですよ。

 「残月」じゃない?

――林さんの頃は「残月」という和室だったんですが、浅田さんの頃はビジネスホテルのシングルルームのような形態になっていました。

浅田 そこで缶詰めにされて、この人に、「そこに籠って短編1本書きなさい」って言われてね。書き上がって渡したら、ここを、もう1回書き直してください、って言われて。

 ちょっと! そんなことしてたんですか!

浅田 ホントにそう(笑)

――表現に誤解があるように思うんですが。「これはたいへん素晴らしい小説ですね、ただ……」

浅田 「ただ、ちょっとこうしたらいいんじゃないですか?」と。

――それは一応、編集者として申し上げました。

浅田 その意見に沿って改稿したら、さらに意見を言われて。もう書き直しなんかできないんで、怖いから原稿を置いて逃げたんです、裏の守衛室のところから(笑)。

――先生はもうお帰りになりましたと言うんで缶詰め部屋に行ってみたら、原稿があるだけでご本人はいらっしゃらなかった。

浅田 そういうことがありましたね。

【次ページ】小説における人物造形


 こちらもおすすめ
インタビューほか公開座談会 角田光代×奥泉光×鵜飼哲夫「芥川賞、この選評がおもしろい」(2014.07.17)
インタビューほか北村 薫×桜庭一樹×宮部みゆき ビブリオバトル「直木賞受賞作、私のこの“1冊”」(2014.07.16)
インタビューほか公開対談 北方謙三×川上弘美 作家として書き続けること(2014.07.11)
インタビューほか公開対談 島田雅彦×桜木紫乃 小説の中の男と女(2014.07.04)
インタビューほか公開対談 辻村深月×円城 塔 小説で“事件”を描くとは(2014.06.27)
インタビューほか公開対談 綿矢りさ×道尾秀介 小説家は幸福な職業か?(2014.06.20)
特設サイト第150回記念「芥川賞&直木賞フェスティバル」(2014.01.29)