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公開対談 浅田次郎×林真理子 「小説講座・人物造型の舞台裏」

公開対談 浅田次郎×林真理子 「小説講座・人物造型の舞台裏」

第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

ダイナミックかつ、繊細なテクニックで

林真理子氏

 私、渡辺淳一先生が大好きだったんですけども、渡辺先生が「ホントに林君の書くものは意地が悪いな」って、よくおしゃっていた。だから私は、「先生、私は普段はとっても優しくて人のいいオバサンなんだけど、書く段になると意地悪くなるんですよ」って申し上げたら、先生が「僕もそうなんだよ! 普段は女性に全然興味ないのに、書く段になると、急に興味がわいちゃうから不思議だよな」っておっしゃって。

――人間を冷徹に見て、普通の人には見えないところまで見抜く力。

 意地の悪いとこ、たぶんあると思いますよね。普段は普通にお付き合いできると思いますけども、書くとなると意地が悪くなる。作家ってそうじゃないですかね。

浅田 林さんはご自分では意識してないかもしれないけどね、ずっとマンウォッチングしてます。それは話してるとわかりますよ。人物の造形というのは考えてできることじゃなくて、普段から、日常生活のなかで人間を観察してるんですよ、いつも。この人はこうだろう、あの人はこういう感じって、面白いものを見るように観察してる。だから面白い人たちがたくさん書けると思うんです。

――そうですね、人物を大づかみでバッとつかまえる力。その人間の本質をダイナミックかつ正確につかんで描いてみせる。

 ダイナミックにつかんだあとはすごく繊細なテクニックで書いていかなきゃいけないわけです。人物をうまくつかめるから小説がいいかっていうと、また違うんですよね。今度は細かく、テクニックでもって巧緻に書いていかなきゃいけないわけで。その両方を兼ね備えてる人が作家だと思うんです。

浅田 人物造形というのはワンパターンであってはいけないんですよね。たとえばテレビドラマを観てると、悪代官っていうとだいたい同じイメージで役付されていて、違った悪代官って出ないわけですよ。小説ではあれができないんですよね。判でついたような造形というのはしてはならないし、かといってどっかの借りものでもいけない。しかし、現実に自分の見ている人間をただモデライズする、自分の父親、配偶者をモデライズして書くというのはあんまりいい方法ではない。やっぱり自分の頭のなかで架空のリアルな人間を打ち立てる、本当にいるように想像する。そういうふうに考えて自作の登場人物を作るでしょ。そうするとよく街のなかですれ違った人に、「あれ、誰だっけ? どっかで会ったことあるな」って思う。なんのことはない、自分の書いた登場人物の誰かに似てるってことがあるんですよ。そういうオリジナリティ溢れる想像力というのが小説の人物造形には非常に大事だと思います。

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