「3年ほど前から遣唐使の物語を書きたいと思っていました。というのは、日本が東アジアの文化圏にどれほどの恩恵を受けてきたか――インド、中国、朝鮮半島から渡ってきたものを養分として、日本文化が花を開かせてきたのは確かなことなんです。けれど、日中関係も日韓関係も、明治以降の過去だけを振り返って非常に冷え込んでしまっている。2000年ちかい大きな歴史の流れをみてから、それを判断したらどうだろうと思うのです」
ほぼ同時に構想が浮かんできたのが、阿倍仲麻呂の遣唐使に先立つこと約100年前、推古天皇の大王時代に厩戸皇子(うまやとのみこ/聖徳太子)が進めた、今回の遣隋使の物語である。倭国、新羅、高句麗、百済の4カ国が合同で巨大国家・隋への朝貢を考えたのは、互いの国々を攻め合うことに疲弊し、仏教の教えのもと平和な関係を築こうとする背景があったからだ。
「教科書に出てくる名前としては小野妹子が真っ先に浮かぶでしょうが、船で海を渡って、彼らを隋の都の大興城まで送り届けた人々も確実にいたはずです。渡海するためにどの港を使うかは重要な外交問題。それを考えていくと、大陸との交通の要所にあたる海北道中を支配していた、宗像(むなかた)一族である可能性が極めて高いでしょう」
そこで本書『姫神』の主人公、宗像一族の若き姫巫女・伽耶(かや)が誕生した。新羅人を父にもつ彼女は戦乱で家族と離れ離れになり、平和を願う気持ちが人一倍強い。その熱意はやがて一族全体を動かし、厩戸皇子の遣隋使への道筋が開けてくる。
しかし国内では蘇我一族、新羅では王の親衛隊・花郎徒(ファランド)たちが次々と妨害を繰り出す。果たしてこの壮大なプロジェクトは成功するのか……。鍵を握る舞台が、宗像大社のある沖ノ島だ。
「古代から色々な国家祭祀がこの地で行われ、遣唐使の無事を祈る祭祀が行われたことも確かです。おそらく遣隋使の際にも同様だったと想像できるんじゃないでしょうか」
著者の安部龍太郎さんは、この地を実際に訪れたことがある。冷たい海で身を清め、原生林が茂る参道を通り、巨石の並び立つ社を前にしたときは、「まさにご神域に足を踏み入れた」と厳かな気持ちになったという。
「先日、宗像・沖ノ島と関連遺産群のユネスコ世界遺産登録への推薦が決まりました。刊行時期と重なったことにも、不思議なご縁を感じています」
さらに本作は本年12月に福岡博多座での舞台化も決定している。改めて多面的に日本とアジアを見つめ直すきっかけとなる海洋歴史小説だ。
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