絵師・長谷川等伯の誕生を描いた『等伯』で第148回直木賞を受賞した安部龍太郎さん。これまで戦国時代を多く描いてきた安部さんですが、最新作の題材に選んだのは、厩戸皇子(聖徳太子)が派遣した遣隋使。宗像水軍は一行を無事、隋へ渡すことができるのか。美しき巫女・伽耶姫の平和への祈りは届くのか――国も海も越えた一大プロジェクト「遣隋使」を、壮大なスケールで描きます。
――遣隋使を題材に選ばれたのは?
25年ほど前に一人で1カ月間ほど中国を旅したことがあったのですが、その時、日本の文化や歴史は中国から大きな恩恵を受けていると痛感しました。そして、日本と中国の関係をしっかり認識しなければ日本の歴史もわからない、いつかはそんな小説を書きたい、と思ったのです。3年前にまた中国を訪れた際に当時の問題意識を思い出し、私自身、日本の歴史小説を書いてきて作家としての力量もついてきたので、そろそろあの時の宿題を果たさなければと感じました。聖徳太子が遣隋使を派遣したのは607年ですが、その頃、朝鮮半島では争いが絶えず、日本と朝鮮半島をめぐって複雑な外交戦が繰り返されていた。そんな中で派遣されたのが遣隋使だったのです。
――小野妹子を正使とした一行を助けるのが、宗像一族の首(おびと)・宗像君疾風、新羅からの使者・円照など、魅力的な登場人物たち。特に、反対派の追っ手をかわしながら海を渡るシーンは大迫力です。
宗像一族を描くならばやはり、水軍の戦闘シーンを書かなければね。筑前国の北部を治めていた宗像一族は独自の航海技術を持っていて、潮の流れが早い玄界灘を渡ることができたので、大和朝廷に重く用いられました。「日本書紀」には、遣隋使の復路のルートしか書かれていないんです。書かれていないということは、往路は別のルートを通ったのではないか。当時の情勢からどんなルートが考えられるのか――。残っている資料から、最も蓋然性が高いと思うルートを選んで書きました。