インタビューほか

損をして得を取った渋沢栄一に学ぶ

「本の話」編集部

『渋沢栄一 I 算盤篇』『渋沢栄一 II 論語篇』 (鹿島茂 著)

損をして得を取った渋沢栄一に学ぶ

──今、渋沢栄一がブームになっています。

鹿島  バブルが崩壊し、景気が悪くなると渋沢は、必ず注目されますが、そういうときは、「論語と算盤」という言葉で象徴される禁欲の部分が強調されます。しかし、これはある種の誤解だと思います。渋沢は決して禁欲一辺倒の人ではないんです。本当に禁欲だったら実業家にはならないですからね。

 彼は人間の欲望を肯定した上で、「どこかで歯止めをかけなければいけない」と常に考えていました。これは経済においても同じ。「損して得取れ」とは、よく言ったもので、歯止めをかけることで、儲けは永続的になるものなんです。

──なぜ、『論語』を規範にしようとしたのでしょうか。

鹿島  海外の実業家と付き合うなかで、バックボーンには聖書があることに気付きました。彼らは、儲け過ぎにどこかで歯止めをかけ、寄付をするというメンタリティーが、自然と身についていた。日本にも同じようなものがあるはず、ということで小さい頃から読んできた『論語』を読み直すことにしたんです。

──渋沢は、どのような青年時代を送ったのでしょうか。

鹿島  彼が晩年まで、繰り返し語った象徴的なエピソードがあります。あるとき代官に呼び出され、父の代わりに出かけました。そこで代官から、「今度、姫様が嫁入りだから金を出せ」と命令される。しかし「自分は代理だから話を持ち帰りたい」と渋沢は即答を避けました。代官は怒って、「こういうときはつべこべ言わずに金を出すものだ」と、渋沢に言ったそうです。

 これは、江戸時代のルールではちっとも間違っていない。武士に言われれば、金を差し出すのが普通なんです。ところが、渋沢は違った。それに激怒して、こんな理不尽がまかり通る世の中はおかしいと思うようになってしまったのです。

──その後、渋沢は、思いがけず最後の将軍・徳川慶喜に仕える武士となり、運命のパリ留学に出かけます。

鹿島  慶喜の弟、徳川昭武(あきたけ)に同行したパリ万博で衝撃的な光景を目撃しました。それは、一行の案内役だった銀行家のフリュリ=エラールと軍人のヴィレット、渋沢に言わせれば商人と武士が対等に話をしている姿でした。他の同行者は、まったく関心を持たなかったようですが、渋沢は、天地がひっくり返るほどの大ショックを受けてしまうんです。

 彼はこれこそが、理想の「平等社会」だと確信します。この光景を日本でも実現するために、商人を育てて、発言力を高める必要があると考えるようになったのです。

渋沢栄一 1 算盤篇
鹿島 茂・著

定価:2100円(税込) 発売日:2011年01月27日

詳しい内容はこちら

渋沢栄一 2 論語篇
鹿島 茂・著

定価:2100円(税込) 発売日:2011年01月27日

詳しい内容はこちら