末國善己の収穫 十冊
『化け者心中』(蝉谷めぐ実/KADOKAWA)
『蝶として死す 平家物語推理抄』(羽生飛鳥/東京創元社)
『血と炎の京 私本・応仁の乱』(朝松健/文春文庫)
『千里をゆけ くじ引き将軍と隻腕女』(武川佑/文藝春秋)
『黒牢城』(米澤穂信/KADOKAWA)
『天離り果つる国(上下)』(宮本昌孝/PHP研究所)
『戀童夢幻』(木下昌輝/新潮社)
『シャムのサムライ 山田長政』(幡大介/実業之日本社)
『博覧男爵』(志川節子/祥伝社)
『アンブレイカブル』(柳広司/KADOKAWA)
※文章登場順
現代に欠けたものを教えてくれる物語
今年も多くの新人が誕生したが、まずはそのツートップの紹介から始めたい。
大学で化政期の歌舞伎を研究していた蝉谷めぐ実の『化け者心中』は、第十一回小説野性時代新人賞の受賞作。両足の膝から下を失った名女形の田村魚之助(ととのすけ)が、六人の容疑者の中から、新作台本の読み合わせ中に一人を殺して首を切断し被害者と入れ替わった犯人を捜す正統的な犯人当てで、専門知識を活かした時代考証で歌舞伎界の闇や役者の情念を活写し、それを謎解きに絡めた手腕は新人離れしていた。
羽生飛鳥『蝶として死す』は、第十五回ミステリーズ!新人賞を受賞した「屍実盛(かばねさねもり)」を含む連作短編集。平家ながら異母兄の清盛に疎まれた頼盛を探偵役にした本書は、ミステリーとしての完成度の高さもさることながら、一族を守るため貴人の依頼で難事件に挑む頼盛の悲哀は宮仕えをしている現代人も共感が大きく、歴史小説好きも満足できるはずだ。
先行きが見通せない状況が続いているためか、昨年末から応仁の乱を題材にした作品が相次いで刊行された。その中でも、早くから室町中期に着目していた朝松健『血と炎の京(みやこ)』は、頭一つ抜けていた。
細川勝元に救われた骨皮道犬が困難な任務に挑むミリタリー・アクションを通して、強力な兵器の開発が止まらない理由など戦争が起こる普遍的なメカニズムを掘り下げており、考えさせられる。
やはり室町時代が舞台の武川佑『千里をゆけ』は、籖(くじ)引きで六代将軍になり改革に取り組むも、次第に暴君になった足利義教の命を受け数々の戦闘に参加する隻腕の少女・小鼓を主人公にした“戦闘美少女”ものである。小鼓が女性で体に障害もある二重のマイノリティであるが故に、義教が進める政策の誤りに気付き、弱者が安心して暮らせる社会を作るために奔走する後半は、現代の日本に何が足りないかに気付かせてくれるだろう。
織田信長に叛き有岡城に籠城した荒木村重を説得に行った小寺官兵衛(後の黒田官兵衛)が土牢に幽閉された。この史実をベースにした米澤穂信『黒牢城』は、閉鎖空間の有岡城で連続する奇怪な事件を、官兵衛が村重から聞いた話だけで推理する安楽椅子探偵もののミステリーである。ただ、謎解きの伏線に使われる戦国大名と国衆の関係、武器や防具の使い方などの時代考証は緻密で、迫真の合戦シーンもあるので純粋に歴史小説としても高く評価できる。村重が謀叛を起こした動機から、組織と個人の関係を問うなど現代的なテーマを浮かび上がらせたのも見事だった。
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