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志水辰夫 × 北上次郎<br />だから時代小説を書く

志水辰夫 × 北上次郎
だから時代小説を書く

「本の話」編集部

『夜去り川』 (志水辰夫 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #歴史・時代小説

現代を描く難しさ

北上  もうひとつの、最大といってもいい特徴は、現代ものでは初老男・中年男を中心に据えてきたのが、時代ものでは主人公がことごとく青年なんです。初期の作品はともかく、初老小説を書いてきた志水さんが、時代小説という枠を借りて青年を描き出したのはなぜなんでしょう。

志水  やっぱり青春というのかな(笑)。若い人間を置いて、その人物の喜びや悲しみを描くことが、結局いまの人たちの喜びや悲しみを映すことになるのかなという思いはあります。

北上  志水さんのなかで、あるときから青年を書きづらくなったのではないかと僕は思っていたんです。現代を舞台にした青年を描くと居心地が悪い、みたいな。時代小説ではそれが吹っ切れて書けるようになった、ということはないですか。

志水  現代ものをやめたきっかけは、ある時期サイトで連載小説を始めたんです。小学生の子供が親から疎外され、周りの大人たちに気にかけてもらえないという設定で、少年の成長物語をやろうと思った。ところが始めた途端に、親子間の虐待とか殺人とかどんどん出てきてしまって、事実の方がフィクションよりはるかに先に行ってしまったんですよ。もう今さら小説で書いてもしょうがないな、と思いました。そういう問題を提起するより、時代もので純粋に人間の喜びを味わってもらいたい、と考えたんです。

北上  時代小説はまず年代を決めて、舞台となる町を決めて、要は外側から固めて物語を始めるケースが多いと思うんです。そうしないと、現代ではないだけに読者を物語世界に引っ張り込めないですから。ところが志水さんの場合は、登場人物の目になって、まず目に映る風景を描いて、人の姿を描いて、耳に入ってくる会話があって、そうやってだんだん立ち上がってくる。だからいつも最初は、場所がどこだか分からないんです。少しずつ分かってきて、今回だったら、川を渡っていてどうやら渡良瀬川の近くだ、とか。カメラアングルが下にあるんですね。これは意識なさってるんですか。

志水  意識してます。

北上  それは現代小説でもやっていらしたんでしょうが、時代小説のほうがより有効だという気がしました。

志水  かつてスピルバーグがジョン・フォードにインタビューしてたことがあるんです。ジョン・フォード曰く、画面の種類には二つしかないと。つまり地平線が上のほうにあって下の地面の部分が多く見えている画面と、下に地平線があってその上は全部空、という画面と。私はあくまでも個人の目で行きますから、上に地平線があるタイプ。そういうやり方は常に意識しています。

夜去り川
志水 辰夫・著

定価:1700円(税込) 発売日:2011年07月27日

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