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松山大耕(僧侶)×小川哲(作家)「ウィズコロナ時代の心との向き合い方。常識を更新し、よりよく生きるための心得とは」

松山大耕(僧侶)×小川哲(作家)「ウィズコロナ時代の心との向き合い方。常識を更新し、よりよく生きるための心得とは」

聞き手:「別冊文藝春秋」編集部

「松山大耕×小川哲」別冊文藝春秋LIVE TALK vol.2[完全版]

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

変わりつづける状況のなかで、それでも伸びやかに生き、穏やかに「死」と向き合うためにできることを考えたい。「宗教とはその時代ごとの『安心』に応えるもの」という志でさまざまな実践に取り組む僧侶・松山大耕さんと、SF作家の小川哲さんに、存分に語り合って頂きました。

※本対談は二〇二〇年七月二四日にTwitterライブ&Zoomウェビナーにて配信したものを再構成したものです。

全編の動画はコチラ→https://youtu.be/ZUlultnc9Jo
ダイジェスト&後日談の音声はコチラ→https://voicy.jp/channel/1101/91015


自粛期間中の禅寺で行われていたこと

小川 今日、京都にあるこちらの「退蔵院」にお邪魔して、まず広さに驚きました。松山さんが副住職を務める退蔵院は、妙心寺の塔頭にあたるとうかがいましたが、そもそも妙心寺というのが、臨済宗妙心寺派の大本山にして日本最大の禅寺なんですよね。

松山 そうですね。妙心寺には全部で四六の塔頭があって、その一つが退蔵院になります。

小川 つまり、妙心寺がディズニーランドだとすると、退蔵院は園内のアトラクションの一つであると。すみません、ディズニーランドに喩えて。

松山 いえ、まさにそういうことです(笑)。ここでは、たくさんの塔頭が石畳で結ばれた一つの寺町をつくりあげています。

 ちなみに「退」というのは、仏教の経典に出てくる「陰徳」を意味する言葉です。こっそりいいことをすることですね。それを蔵のようにたくさん積み上げなさいというのが、退蔵院の名前の由来です。

小川 退蔵院だけでも相当な広さですよね? お庭もいくつもあって。

松山 そうですね。順番にご紹介しましょうか。1番の写真、これが「余香苑」というお庭です。季節を感じていただける場所というテーマで造られたお庭で、私のおじいさんの時代(一九六六年)に完成しました。

(1)余香苑

小川 2番と3番はこれ、対になっているんでしょうか。

(2)陰の庭
(3)陽の庭

松山 そうです。陰の庭、陽の庭というもので。仏教の教えで「不二」というものがあるんです。物事を「白黒どちらか」ではなく、一つのものとして見ていきましょうという、そういう教えを表現したお庭です。そして4番が、本堂の脇にある「元信の庭」。

(4)元信の庭

 いまから五〇〇年ほど前、狩野派第二代の狩野元信という絵師が造ったお庭です。枯山水ですが、こういったお庭は通常、和尚さんもしくは庭師が造るもので、画家が造ったというのは大変めずらしいんです。全部常緑樹でできておりまして、夏でも冬でも同じ景色が見られるという、そういうところに美学を見出した伝統的なお庭です。

小川 もしかして、こちらがステイホーム中に「白砂洗い」に取り組まれたというお庭?

松山 そうです。外出自粛が始まって、参拝の方がほとんどいらっしゃらないという、これまでにない事態がやってきたので、思い切って白砂を全部洗ってみました。五〇〇年の歴史で初めてだろうと思います。私の父である高齢の住職と、私と弟子の総勢五人で、スコップで砂をすくって手で洗い……大変な荒行でした(笑)。一〇日はかかったでしょうか。おかげで本当にピカピカになりましたし、作業のなかで昔の石組みが出てきたり、元来のお庭の風景が浮かび上がってきたんですよ。これはステイホームの恩恵といってもいいと思います。

小川 すてきなお話ですね。次の、5番の桜も実に見事に咲いているようですが。

(5)しだれ桜

松山 しだれ桜ですね。これもまた、私のおじいさんが六〇年前に植えたもので、ちょっと遅咲きなので、毎年四月の一〇日ぐらいに満開になります。今年は例年になく咲き誇り、参拝の方にお見せできないのが悔やまれるぐらいでした。

小川 そして6番があの、宮本武蔵が逗留していたという、伝説の本堂?

(6)宮本武蔵が逗留していたという、伝説の方丈

松山 そうです。正式には方丈というのですが、いまから四二〇年ほど前、一五九七年に建てられた方丈に、武蔵が逗留し、修養していたといわれています。その一角に「瓢鮎図」という日本最古の水墨画がありまして、瓢箪で鯰をつかまえるという、そういう禅問答(公案)を描いた図になります(7番の写真)。つまり、退蔵院は元信の庭や方丈という、本当に古い、四〇〇年以上前に整備されたエリアと、私の祖父の代、つまりいまから六〇年ほど前に造られたエリアの二つがあるわけですね。

(7)瓢鮎図

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