この時、マイクロソフトとアップルにとって稼ぎ頭は明白だった。WindowsやiMacという手にとることができるパッケージ製品である。いっぽうでグーグルにはそれに匹敵する、すなわち販売店で買うことができるような商品はない。あくまでもサービスだけだったのだ。そのため当初三年間は赤字だったグーグルだが、二〇〇二年ついにCPC(コスト・パー・クリック)型アドワーズとアドセンスという画期的な広告手法を生み出す。これを境に黒字に転換したグーグルは二〇〇四年の株式公開で莫大な資金を調達し、二〇〇六年にはユーチューブという新兵器を手に入れることになる。
本書は一九九八年から二〇〇九年までのグーグルを描いた本だ。それ以降のグーグルについて、短くまとめてみよう。
二〇〇九年、NTTドコモより日本初のアンドロイド携帯電話発売。
二〇一〇年、Google TV や自動運転カープロジェクトなどを発表。
二〇一一年、You Tube Live、Google+ を発表。
二〇一二年、個人向けにGoogle Glass を発表。法人向けにGoogle Compute Engineや地理空間情報ソリューションなどを強化。
残念ながら、どれ一つをとってもグーグル検索やアドセンスに匹敵するほどの破壊的な新技術や新サービスが出てきたという印象はない。現在のグーグルは四万人の社員を擁する企業だから、提供しているサービスも無数にあり、対象も個人だけでなく法人や公的機関も含むし、収益も当初の広告収入だけではなくなってきている。顧客どころか専門家もすべてを理解することは不可能だ。経営は複雑になるばかりであろう。本書でも経営学の歴史的名著『イノベーションのジレンマ』を書いたクリステンセン教授が
「グーグルのビジネスモデルを盤石と見るべき根拠は何もないね」
と答えている。
『イノベーションのジレンマ』は巨大企業が株主などの期待から、その巨大な市場や利権を維持する努力をするがゆえに、カニバリゼーションを恐れ、新規事業を起こすことができず、やがてベンチャービジネスにとって代わられるという理論だ。冒頭のデジャヴはグーグルの巨大化が進むにつれて真実味を帯びてくるのだ。
グーグルもいつか普通の企業となる。しかし時代がグーグル以前に戻ることはないだろう。また本書はグーグルに関わる人間、戦略、思想、価値観、技術、マーケティング、競争など現在進行形の素晴らしいケーススタディになっている。語り口はじつにスピーディーで、情報の密度は高く、読み応えがある。原典にもあたってみたが、翻訳も素晴らしく、非の打ち所がない。グーグルのユーザーとして、競争相手として、就職先として、なによりも現代を生きるビジネスマンとして価値ある一冊だ。
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