- 2014.12.27
- インタビュー・対談
凄味を感じるほどの純粋な愛とは
執筆の舞台裏から最新作まで語り尽くしたトークイベント
にご蔵 (イラストレーター)
『伶也と』 (椰月美智子 著)
ジャンル :
#小説
作品の題材は編集者との会話のなかから
にご蔵 デビューされて以降、今では児童文学から一般文芸まで作品の幅を広げていらっしゃいますが、そのきっかけって何かありますか?
椰月 『しずかな日々』で文学賞をふたついただいて、他の出版社さんにも声を掛けていただけるようになりました。いろんな出版社のいろんな担当者さんに会ってから、世界が広がったというか、出版業界ってこうなっているんだなっていうのがようやく分かりました。
にご蔵 『しずかな日々』(講談社文庫)っていうのは、主人公の「ぼく」にとって小学5年生の夏休みがターニングポイントだったということが、後から回顧録みたいな感じで淡々と書かれていますね。椰月さんにとってもターニングポイントだった?
椰月 そうですね。ちょうど『しずかな日々』を書いたのは、私が再婚して、出産して、前の仕事を辞めて小説家だけになった時期です。いろんな意味でターニングポイントでした。
にご蔵 小説家になられてから、影響を受けた作家さんとか影響を受けた作風とか、そういったものはありますか?
椰月 レイモンド・カーヴァーの短編の、不穏な、些細なことで一気に場面が変わる感じとか、「あ、やっちまった」みたいな雰囲気がすごい好きです。普通は小説を二度読みしないんですけど、カーヴァーだけは何度も読んでいますね。
にご蔵 椰月さんの短編集も、読んでいて「え、これどういう意味!?」って二度読みしてしまいました。
椰月 講談社文庫から出ている『みきわめ検定』と『枝付き干し葡萄とワイングラス』はレイモンド・カーヴァーを真似して書いてみました。
にご蔵 短いんですけど、足元すくわれるようなやっちまった感があって。なかなか楽しい、面白い短編集だなって思いました。椰月さんはいろんなジャンルで題材を見つけられるのが上手だと思うのですがどう探していらっしゃるんですか?
椰月 たいていは担当編集者さんとの話し合いで題材が見つかることが多いです。
にご蔵 じゃあ、2人とか3人とかで「次何書きましょう?」って?
椰月 自分が興味のあることをちょっと言うと、編集者さんたちはすごく頭が良くて回転が早いので、すぐそこからアンテナを張り巡らせて、いろんなヒントを与えてくれるので……、ありがとうございます(頭をさげる)。
にご蔵 そういう中で一番心に残っている題材の見つけ方ってありますか? 「ちょっと意外だったけど、書いてみたら面白かった」みたいな。
椰月 『かっこうの親 もずの子ども』(実業之日本社文庫)は、最初は赤ちゃんの取り違えを題材にしたかったんです。けれど、昨今ではあまりそういうこともなくて、40年くらい前が最後だったので、非配偶者間の人工授精という話に変えたんです。それでセラピーに行ったり五島列島に行ったり、いろんな取材に行ったんですけど、そのときはまだ全体像が見えていなくて、取材したものをどう活かせばいいんだろうという不安もありました。でも書き始めたらいろいろなことが繋がって、ひとつの小説になりました。おもしろい体験でした。
司会 なぜ五島列島を選んだんですか?
椰月 島で双子の男の子たちが海で遊んでいるイメージがあったので、どこか南の島でと思ったんです。だけど、リゾートというよりはもう少し地味なところがいいなあと思って探しました。五島列島は教会も多くて、バックグランドもいいかなと。
にご蔵 風景と現代の問題をすごくきれいに言い回ししていて、一気に読めちゃう小説のうちの一つだと思うんですけど、題材も、終わり方も素晴らしかった。終わり方って、題材が決まって「書くぞ」ってなったときから大体決めて書かれているんですか?
椰月 家族の話を書こうとか、お仕事の話を書こうとか、恋愛の話を書こうとか、そういう大まかなものはあるんですけど、細かいことはほとんど決めてなくて。連載のときはもう少しは詰めますけど……そうですね、ラストも全然見えない感じですね。
にご蔵 へー。じゃあ、主人公たちが書いているうちに勝手に動いていっちゃうっていう感覚ですか?
椰月 うーん、勝手には動かないんですけど。なんでしょうね、8畳くらいの同じ部屋の隅からひっそり覗いているくらいの感覚で書いてます。
にご蔵 座敷わらしになっちゃう。
椰月 そうですね(笑)。
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