- 2013.05.01
- 書評
勘三郎さんは「がんで亡くなった」のではない
文:近藤 誠 (慶應義塾大学医学部放射線科講師)
『がん治療で殺されない七つの秘訣』 (近藤誠 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
医者・医療に殺される
「殺す」「殺される」という言葉は物騒だ。医療の場にはふさわしくなく、ことに医師に対して用いてはならない――かつて私もそう思っていました。
では、歌舞伎役者・中村勘三郎さんの場合はどうなのか。(1)食道がんでは、全摘手術よりも放射線治療のほうが安全で、生存率も同等かそれ以上なのに、(2)外科医はそのことを教えず、(3)12時間もかかる開胸手術へ誘導し、(4)案の定、勘三郎さんを術死させてしまった、と表現すれば正確です。しかしこれは実質的には、がん治療で殺されたということではないのか。――このタイトルのもとで本書を執筆した動機です。
第1章は、勘三郎さんの病状経過の分析を通じて、日本のがん治療全般に潜む問題点を指摘しました。今流行りの「チーム医療」を信じると危険であり、健康で何も悪いところがないのに健診や人間ドックを受診すると、勘三郎さんのように寿命を延ばすどころか縮めてしまう可能性が高いのです。
思えば昭和に入るまでの医療はのどかでした。治療行為といえばケガの手当てや、効力の弱い薬の処方が主なので、「治療死」という概念はなく、人々は医師のことを「お医者様」とあがめていればよかった。
しかし現在では、人は70になっても80になっても、何かにつけて手術を迫られ、副作用が強く出る薬を処方され、命を縮めている人が数限りなく存在します。
がん治療はことに危険で、抗がん剤のほとんどは毒薬指定です。肺がん、胃がん、大腸がん等の(塊をつくる)固形がんでは縮命効果しかないのに、医者は「標準治療です」と抗がん剤を押し付けてくる。
食道がん、膀胱がん、子宮頸がん等では、放射線治療という臓器を残せる方法があり、生存率も変らないのに、日本では手術医の力が強いため、臓器全摘術になってしまいます。治療法はデータや理論に基づくのではなく、診療科間の力関係によって決まっているのです。