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吉村萬壱×長嶋有「13年目の同窓会」あえて取材しないで書く理由

吉村萬壱×長嶋有「13年目の同窓会」あえて取材しないで書く理由

「本の話」編集部

『ボラード病』(吉村萬壱 著)刊行記念トークイベント


ジャンル : #小説

忘れられない、インパクト絶大の歌詞

『ボラード病』(吉村萬壱 著)

長嶋 『ボラード病』は24章から成ってますけど、1個1個が短篇みたいでした。それぞれの章の最後の1文がまた格好いい。センチメンタルや感傷にひたらずに、作者が登場人物を突き放すでしょう。予定調和を最後の1行で覆されるんです。『クチュクチュバーン』の「嘘つけ」、も絶対に忘れないラストですけど。

吉村 やっていることとか方法論は、デビューの頃から何も変わってないんですわ。

長嶋 『クチュクチュバーン』の熱量や奇想の繰り出しかたとは全く違うし、『ヤイトスエッド』で使った筋肉とも違う。まったくタイプの異なる小説ですが、細部が過去の作品に通じているんですよね。「岬行」という中篇で、図書館で日がな1日過す男が、公共のトイレでトイレットペーパーに〈直腸癌〉とボールペンで書いて、また巻き戻すでしょう。

吉村 ああ、ありましたね。

長嶋 インパクト絶大ですごく覚えてますけど、他の短篇でもトイレットペーパーに何か書く場面がありました。『ボラード病』では、主人公の恭子がトイレットペーパーにスタンプをおしてますよね。過去のシーンを繰り返し書くのは、萬壱さんのなかに原風景として常にあるものなんですか。

吉村 それはないですけど、まあ自分のなかの駒が少ないんでしょうね。

長嶋 でも似たことを言われても、全く飽きないんです。玄関の蜘蛛の巣というのも出てきましたけど、『クチュクチュバーン』では、逃げている男の内面描写から脚の回転、身体の動きに着目したとたんに、それが蜘蛛のたとえにつながっていくけれど、『ボラード病』では女の子の視点で蜘蛛の動きが語られる。これは新鮮でした。

吉村 長嶋さんの作品でも同じこと言えますよね。ジャージ着て風呂入って寝るだけ、それだけのことなのに、何でこんなに面白いんやろといつも思うんですよ。

長嶋 ミニマムなところを正確に描写したいというのは、作風は違うけど似てるかもしれないですね。『ボラード病』で、学校で合唱をするじゃないですか。「海塚、海塚、海塚……」と10回も。こんなに地名を連呼する歌詞は、萬壱さんしか書かないですよ(笑)。『バースト・ゾーン』でもテロリン(テロをする存在)を壊滅させるために、ラジオで流す童謡がありましたよね。「そんな所にいないで出ておいで。明るい所に出ておいで。ドッカーンドカーンドカーンハイハイ」っていうの。

吉村 その歌を聞いて志願する人、いませんよね(笑)。

長嶋 でもこの歌が、『バースト・ゾーン』が忘れられない理由の1つになってるんですよ。『ボラード病』で合唱コンクールの自由課題曲になるアニソンも気になりますね。タイトルが「明日ヘのスタートライン」(笑)。これも歌詞はあるんですか?

吉村 それはないです。

長嶋 アニソンとかショッピングモールとか、現代にあるものが出て来るのに、どこか異世界を描いているようでもある。情報の臨場感がまぜこぜですよね。主人公が貧乏なのに部屋が7つもある家に住んでいる、というのも面白い。

吉村 実際にいま自分が住んでいるのが、部屋が7つある古い民家なんですよ。普段生活しているところをそのまま舞台にしているだけ。あと長嶋さんとの共通点でいうと、取材しないで書くということじゃないですか。

長嶋 そうですね。なんか取材して書くと工場見学みたいになっちゃう気がする。取材される側も普段の姿と違うところを見せるし。

吉村 僕は人に話を聞くと、その人の批判ができなくなるのが嫌なんです。特に『ボラード病』みたいな小説は、誰かに具体的に話を聞いたら絶対に書けませんよ。隣の家に住む〈ヌオトコ〉は、あのまんまの人がおるんですけど、この夫婦は絶対にこの小説を読まないという確信があった。

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文春文庫
ボラード病
吉村萬壱

定価:572円(税込)発売日:2017年02月10日

文春文庫
問いのない答え
長嶋有

定価:869円(税込)発売日:2016年07月08日

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