二〇〇一年、第九十二回文學界新人賞を同時受賞した長嶋氏と吉村氏。
ともに芥川賞を受賞。
その後も、激動の二十年を作家としてサバイブしてきた。
思うように書けなかった頃、純文学とエンタメの違い、互いの共通点と差異。
二十年の悲喜こもごもを振り返る“同期”対談。
■文學界新人賞のころ
長嶋 二十年前のことを僕はあんまり覚えていないんだけど、萬壱さんはけっこう覚えてるんですよね。初めて会ったときのこととか。
吉村 よく覚えてますよ。文藝春秋のビルの前の交差点で信号待ちをしている長嶋さんを見たのが最初です。
長嶋 そうそう。それを僕は覚えてない。
吉村 この顔はどこかで見たなと思って、「ああそうだ、(受賞作発表ページの)写真で見たんだ」と声をかけたんです。それで一緒に文春に入っていったと思います。文學界新人賞の授賞式のときでしたか。
長嶋 そうです。文學界新人賞は文春の会議室で授賞式をやるんですよね。
吉村 もっと大きい会場を想像していたら会議室だったというのは何となく覚えてる。ちょっと干からびたサンドイッチみたいなのが出されて。
長嶋 みんな紙コップ持って乾杯してね。
吉村 たしかその時、川上弘美さんがいらっしゃいましたよね?
長嶋 川上さんはたまたまなにかの打ち合わせで文春の近くに来ていて、顔を出してくれたんです。
吉村 デビュー前から長嶋さんは川上さんと俳句で知り合いだったんですよね。
長嶋 そうなんです。たぶん文春の編集者が川上さんに声をかけてくれたんでしょう。授賞式に花を添えてくださった。川上さんがいなかったら、文春の人たちから拍手されてるだけだった(笑)。別に夢のない世界だなと思ったわけでもないんだけど、キョトンとした覚えはあるな。でも、賞品で懐中時計をもらったりして、ミーハーに受賞っぽさも感じてはいましたよ。懐中時計か腕時計か選べて、お互いどっちの時計を選んだか萬壱さんとエレベーターで言い合いましたよね。萬壱さんは腕時計にしたんじゃなかった?
吉村 そうです。せっかく腕時計をもらったんだからと思って、しばらくつけてましたよ。
長嶋 絶対腕時計のほうがよかった。懐中時計なんて私生活で使えるわけないもの(笑)。今でも、本棚に置いてありますよ。磨いてないから銀がだいぶ黒ずんでるけど(とZoom越しに時計を見せる)。
吉村 ほんとだね。だいぶ黒くなってますね。
■すぐに二作目
吉村 文學界新人賞の山田詠美さんの選評に書いてあったはずですが、受賞してすぐに、長嶋さんは選考委員のところに呼ばれたんですよね。
長嶋 そう。当時、埼玉に住んでいて東京に出やすかったから、一人で結果待ちをしてたんですよ。池袋のロッテリアで。もし受賞したら挨拶に来てくれと言われていて。ホテルニューオータニのレストランに着くなり、詠美さんに「あなたは二番手の受賞なんだからね」と言われたのを覚えてる。
吉村 なんかカクテルを頼んだんでしたっけ。
長嶋 サイドカー。カクテルを出す店なんて行ったことないから、聞き覚えのあるのをテンパりながら言ったら、たまたまサイドカーって言っちゃった。ちょうど僕の受賞作が「サイドカーに犬」っていう題名だったから、詠美さんたちにはウケてたけど、たまたま口にしただけだったんです。とにかくその時の選考は萬壱さんが圧倒的だったというのを、食事をしていた全選考委員が言ってましたね。
吉村 それで思いだした。その後別の用で上京した時、どこかの新聞社の記者さんが僕に話しかけてきて、「吉村さん、文學界新人賞おめでとうございます。新人賞だけでなくさらに大きな賞の候補にも挙がっているそうですね」と言ったんです。それは絶対芥川賞だと思って。そうしたら、そこにいた文春の編集者が焦り出して。
長嶋 えー、それは初めて聞くな。
吉村 でもその時には否定もされなかったので、「これは芥川賞候補になったんだ」と思い込んだ。家に電話して、そういう連絡が入ってないか妻に聞いたりして。で、ふたを開けたら、長嶋さんの「サイドカーに犬」のほうが候補になっていた。その時はかなり落ち込みましたね。
長嶋 それは編集者がちゃんとその場で訂正しなきゃ駄目だよね。
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