時代小説と出会って
――皆さんの時代小説との出会い、関わりなどを教えてください。
中野 5年ほど前、大阪から池袋店に戻って来て、時代小説が売れていることにびっくりしました。店舗がデパートの中にあるので、高齢者の女性や男性も多く、時代小説のコーナーにはお客さんが大勢いらっしゃいます。こちらへ来て1年目に、風野真知雄さんの書き下ろし文庫を全国1売ったということで、大和書房の編集者だった古屋信吾さん(現・静山社)とお話しする機会があり、さらに興味が増しました。また、通勤時間が長く読書量が急に増えたこともあり、いろいろと漁った結果、たとえば山本一力さんのように、時代小説には間違いない作家がいる。そこで安心してのめり込んでいった次第です。
菊池 私が入社した当時、全国の書店から引き抜かれた社員が、周りにはたくさんいました。こちらは本屋の予備知識など全くありませんでしたから、早く彼らに追いつこうと、なじみのないジャンルの本を必死で読んだりして、毎日、汲々と過ごしていました。そんな時に先輩から薦められたのが池波正太郎さんの『男の作法』です。私の態度が悪いから、これを読んで勉強しろということだったのかもしれませんが(笑)、少し余裕を持って働けよというアドバイスだったと思います。それから池波さんにはまり、ファンレターを書いて池波家に通うようになり、昭和62年には催事場で池波さんの展覧会を開催させていただきました。中野さんも指摘されたように、池袋という土地柄、地元のお年寄りのお客様も昔からいらっしゃいます。それを見込んでの展覧会だったと言いたいところですが、まあ自分の思い入れですね(笑)。今でも池波家とは連絡を取らせていただいています。
鈴木 僕の場合、文芸編集者になってからは、担当に時代小説家が多く、素晴しい作品をたくさん頂戴しました。池波さんもそのお一人ですし、五味康祐さん、山田風太郎さん、藤沢周平さんにもたっぷり浸りました。もっと遡ると小学校高学年の記憶に辿りつくんです。当時昭和30年代前半、村上元三さんの『八幡船(ばはんせん)』というラジオドラマがあって、とにかくそれに夢中になりました。中学の頃は吉川英治の『宮本武蔵』、その後は山本周五郎の人情味溢れる『さぶ』に非常に感動したことも覚えています。
市川 皆さんに比べると、私はずっとミステリーばかりを読んできて、正直、不安になりました。司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』なんかも5巻目まで読んだんですけれど、6巻目で「あれっ? 話がえらく飛ぶなあ」と思っていたら、『坂の上の雲』の6巻を読んでいた(笑)。そこで挫折してしまったようなこともあり、基本的に押えておくべき作品を読めていないんです。ただ、藤沢周平さんだけは、小さな店の店長で売り上げが悪かった時期、読んでいて癒されたというか、落ち込んだ状態から「これじゃいけない」と立ち直れた。また、最近では志水辰夫さんや真保裕一さんのように、ミステリー作家の方も時代小説を書かれるので、親しむ機会が増えてきています。
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