- 2014.07.20
- 書評
山好き書店員が読んだ『春を背負って』 若き山小屋の主のたくましき成長物語
文:鈴木 正太郎 (TSUTAYA香里園店勤務)
『春を背負って』 (笹本稜平 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
山小屋は最後に頼れる心の拠り所
過酷な山の上の環境下で山小屋の果たす役割は大きい。山小屋は山で最後に頼れる心の拠り所だ。
山小屋は山を登ってきた人のすべてを受け入れる。泊まれる場所がいっぱいになっていても宿泊を断ることは出来ない。夏場であっても深夜は冷え込むため、装備もなく野宿をした結果命を落とすこともあるからだ。登山客が山の頂を目指すとき、その途中にある山小屋は目的地に向かうとき最後の休息所になるし、道中の指標にもなる。遠くの尾根に山小屋が見えてくると安心して、ヘロヘロになっていた足が少し軽くなる気さえする。山小屋で働く人たちは登ってくることが大変なことをよく理解しているので、労いの言葉を掛けてくれる。明るく、気配りの出来た方ばかりなのは、他者を想うもてなしの気持ちが強いのではないかと思う。自分が好きな山に登ってきた登山客が、気持ちよく山で過ごせるようにサポートしてくれているのだろう。
山小屋では実際に亨たちのような人たちがたくさん働いている。普段文明の恩恵を受けた生活に慣れていると、不自由で過酷な山でにどうして好んで働くのか疑問に思われるかもしれない。彼らは個人の持てる力を最大限発揮して生きている。そして、自分たちの弱さを知っているから人にも優しくなれる。
亨もゴロさんも山で起きることは基本的に自己責任だと認識しながら、絶対に他者を見捨てない。そして、今できる最良の策はなんなのかを瞬時に判断する。元から備わっていた才能ではない。環境が人を育てている。本書は山小屋の1年間を綴った話なのだが、小屋主の亨がどんどん逞しくなっていくのが手に取るように伝わってくる。常連客が増えればそれだけ小屋も亨も成長していくのだろう。
今年の夏も山を目指すつもりだ。泊まる山小屋にはきっと亨のようなまっすぐな青年はいるだろうし、ゴロさんのような百戦錬磨の年配者もいる筈だ。美由紀のような料理が得意なヒロインもいたら、更に楽しい思い出になることだろう。
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