2016.05.09 インタビューほか

ボクサーはなぜ戦い続けるのか

「オール讀物」編集部

『拳の先』 (角田光代 著)

ボクサーはなぜ戦い続けるのか

 著者初のスポーツ小説『空の拳』から4年、再び、ボクシングに向きあったのが本作だ。

「前作ではボクシングの動きの表現に心を砕き過ぎて、試合の場面を書き過ぎたという反省がありました。今回は、物語をよりくっきりと描こうと。立花というボクサーに“世界”をみせたいとも思っていました」

 ボクシング専門誌から文芸編集者となった那波田空也は、ふとしたことをきっかけに、一度離れていたボクシングに近づく。かつて通ったジムの花形選手タイガー立花と再会。立花はライト級の日本タイトルを失うも、奪還するために練習を続けていた。そんな彼に立ち塞がるのが、若き天才ボクサー岸本修斗だった。実力の差を見せつけられた立花はリング上である行動に出て空也を失望させてしまう。

「他のスポーツはあまり見ないのですが、ボクシングだけはずっと見続けてきました。試合を見ていると、リング上のボクサーの心情がはっきりと分かることがあるんです。恐怖心を取り繕おうとしても、すべてが剥がされてあらわになってしまう。そこがボクシングの面白いところです」

 ぐしゃりという音がするほどの強烈なストレートを浴びて、立花は惨敗。その姿を見ていたのがジムの練習生ノンちゃんだった。小学校からいじめられ続けていた少年は、立花の試合をみて“強くなりたい”とボクシングを始めた。だが、中学進学後もいじめはエスカレート。いじめから救い出したいと願う空也は、ノンちゃんとともに、立花の背中を追い続ける。

 手術とリハビリを経た立花は階級を一つ落として復帰を決断。“なぜ岸本にもう一度挑まないのか。それは逃げではないのか。強さとは何か――”。そんな空也たちの疑問にこたえることなく、男はリングに立ち続ける。

「ボクシングジムに長らく通っていますし、『空の拳』を書き終えてもずっと不思議だったのは、彼らがなぜ戦っているのか、ということです。最近の選手たちは、相手に対して敬意の念を持っています。敬意を持った相手と殴りあうわけですから、“相手を叩きのめしたい”という気持ちだけで戦うのではない。その理由を描きたくて、今回のタイトルをつけました」

 本作では、弱小ジムからは世界タイトル挑戦が難しいボクシング界の現状もリアルに描かれている。周囲の協力で世界への道筋が見えはじめた立花が、化け物のような恐怖に対峙したとき、“拳の先”に何を見たのか。物語に込められた著者の答えをぜひ読んでほしい。

角田光代(かくたみつよ)

1967年神奈川県生まれ。2005年に『対岸の彼女』で直木賞、07年、『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、12年には『紙の月』で柴田錬三郎賞を受賞した。

拳の先
角田光代・著

定価:本体2,200円+税 発売日:2016年03月10日

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オール讀物 2016年5月号

特別定価:1,000円(税込) 発売日:2016年4月22日

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