書評

巨大な恐怖に対し、逃げながら闘う男たちの“ボクシング”を読む

文: 中村 航 (作家)

『拳の先』(角田光代 著)

『拳の先』(角田光代 著)

 ボクシングだけのことではないが、人はいろんな(プロ)スポーツに惹かれ、特定のチームや選手に感情移入する。

 ストイックに努力し、自分の才能と向き合い、相手との勝負に挑む競技者のことを、格好いいとか美しいとか思い、憧れの気持ちを抱く。勝てば嬉しく、負ければ悔しく、自分のことのように感情が動く。ざっくり言えば、プロスポーツの本質(仕組み)は、“感情移入の容れ物たる競技者が、真剣に勝負している”というところにあるのだろう。

 特にボクシングを観るとき、僕は、選手が自分の代わりに闘ってくれている、と思うことがある。小学生のとき『あしたのジョー』とか『リングにかけろ』を貪るように何度も読み、中学生のときには電灯から吊るしたヒモに、コークスクリューブローを打ち込んだ。だけどボクシングなんて始められなかった自分の代わりに、彼らが闘ってくれている。かつての自分が持っていたかもしれない闘争心とか、持ちたかった才能とか、できなかった努力とか、したかった勝負とか、そういったものを、選手は僕の代わりに追求してくれている。



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