- 2016.01.14
- 書評
デビュー40周年・オリジナル著書580冊突破!――赤川次郎の〈最初の一歩〉がもつ意味とは?
文:山前 譲 (推理小説研究家)
『幽霊列車』 (赤川次郎 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
何事にも〈最初の一歩〉というものがあるでしょう。どの方向に、どのくらいの歩幅で踏み出すのか。その結果はたいてい、すぐには出ないでしょう。後々、最善の一歩だったと思うのか、別の一歩にしておけば良かったと後悔してしまうのか。いずれにしても、その一歩は重要です。
では、二〇一五年にオリジナル著書が五百八十冊を突破した、作家・赤川次郎の〈最初の一歩〉は? それは、新人賞の受賞でした。ただ、マスコミで大々的に報道されたわけではありません。今から思えばじつに小さな一歩だったのです。しかし、日本のミステリー界にとって、その一歩が偉大な飛躍だったことは言うまでもありません。
本書『幽霊列車』は、赤川さんの〈最初の一歩〉となった「幽霊列車」を表題作にして、一九七八年六月に文藝春秋より刊行された短編集です。『死者の学園祭』、『マリオネットの罠』、『三毛猫ホームズの推理』につづく四番目の著書でした。
永井夕子と宇野警部のコンビによる謎解きの〈最初の一歩〉でもある「幽霊列車」は、一九七六年に第十五回オール讀物推理小説新人賞を受賞した作品です。賞の発表は「オール讀物」の同年九月号でしたが、読者はちょっと、いや、かなり驚いたのではないでしょうか。なんと受賞作が三作もあったからです。他の受賞作は、石井竜生・井原まなみ「アルハンブラの想い出」と岡田義之「四万二千メートルの果てには」でした。最終候補作が七作だった(これもちょっと珍しいことです)その回は、じつにハイレベルの選考だったようです。
選考委員は生島治郎、菊村到、笹沢左保、戸板康二、南條範夫の五氏で、七月二日に選考会が行われていますが、たとえば笹沢氏は、“とにかく、どの作品も面白かった。これくらいの水準の作品が集まれば、選ぶほうも楽しませてもらえる。特に入選した三作品には、それぞれの個性と新鮮さがある。いかにも新人らしい作品、新しさを感じさせる作品がこれほど揃うことは、ほかの新人賞の選考も含めて、珍しいのではないかと思った”と選評に記しているほどでした。
その笹沢氏は、「幽霊列車」について、文章の軽妙さや伏線の張り方を評価したあと、“このまま実力を発揮してくれれば、個性的なユーモア推理小説の旗手が誕生するかもしれない”と述べています。他の選考委員もユーモア・ミステリーとして高く評価していました。ところが、作者自身はまったく意識していなかったというのですから驚きです。このあたりに赤川作品を分析する〈最初の一歩〉があると言えるでしょう。
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