- 2014.02.19
- 書評
フクシマの未来の子どもたちへ
文:青沼 陽一郎 (ノンフィクション作家)
『フクシマ カタストロフ 原発汚染と除染の真実』 (青沼陽一郎 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
「フクシマ世代」という言葉をご存知だろうか。
決して、筆者が思い付いた造語ではない。
かつて史上最悪の原発事故を引き起こしたチェルノブイリでは、当時周辺地域に暮らし、爆発によって被曝してしまった人々のことを「チェルノブイリ世代」と呼んでいる。
東日本大震災が発生した年は、奇しくもチェルノブイリ原発事故から25年の節目にあたった。4半世紀を経た現場を取材し、福島の25年先を行く汚染の現状を探っているとき、彼の地の医療関係者たちは既に「フクシマ世代」という言葉を用いていた。そして事故のことを「アクシデント」ではなく、「カタストロフ」(大惨事・悲劇的結末)と呼ぶのも、この時に知った。
原発事故によって被曝した世代に降りかかる不幸は避けられない。事故四年後に、チェルノブイリ周辺で子どもの甲状腺に癌が多発したことは、いまではよく知られる。事故以降に生まれた子どもたちと比較して、明らかに増加傾向が見られたことから、ようやく原発事故との因果関係が認められ、被曝世代の背負ったもっとも顕著な症例として知られることになったのだ。
本人たちにその認識がなくとも、時間の経過とともに身体に異変は起こり、そして、さらにその子どもたちの世代へと異変は受け継がれていく。
その最初の被曝世代を称して「フクシマ世代」と呼ぶ。日本人にその自覚はなくとも、これは世界の常識である。
ただ、チェルノブイリとフクシマでは、事故の様相も規模も違う。だとしたら、チェルノブイリほどの惨事を招くこともないのではないか。
そんな、淡い期待を込めて取材を続け、事故から2年が過ぎるのを待った。2つの事故を比べようにも、フクシマの踏み出す方向性が見えないことには、何が違ってくるのか判断できなかった。せめて子どもが歩みをはじめるくらいの時間は必要だった。また、原発から放出された放射性物質(セシウム134)が約2年で半減期を迎え、空間放射線量が半分になることがわかっていたからだ。
その間に、フクシマの子どもたちに甲状腺癌がみつかった。通常100万人に1人とされる癌だが、今や、それをはるかに上回るレベルで増え続けている。