文庫本にするためにあらためて原稿を読み、細かな修正を加えるための作業を4ヶ月ほどしている間に自分自身のゴルフの調子も不思議とよくなった。自分の原稿を読んで自分自身が上達してしまった。ハーフで34、ホームコースでも35が出た。これまでのベストハーフは33だが、それはまさにフロックで、もう10年以上も前のことだった。
今回の数字は数週間のうちに2度も出たもので、「もしかすると上手くなったのか」とひとりニンマリ。それは以前のような偶然の産物、神様の悪戯ではなく、たしかに上達した結果のように思えた。好スコアが出たのは、再読の作業で忘れかけていたいくつかのポイントを思い出したからだと思う。わかっていたが、できていないことの発見があった。と言っても、この先も安定して素晴らしいスコアが続くとはとても思えない。自信もない。「どうせまたしばらくで忘れる」だろう。それでも今回は救いがある。「忘れたらまた読めばいい」のだ。私は筆者のくせに読者でもある。なんとも幸せな話である。
ゴルフ上達への階段はまっすぐに伸びた神社の階段のようなものかと思っていた。つまりもう少し簡単に上達できると考えていた。が、その階段はまっすぐではなく、実に辛い螺旋階段だった。一見単純そうに見えてもいざやってみると一筋縄ではいかないゴルフ。言い方を変え、視点を変え、なんとかスウィング理論の正体をつきつめて、理解しやすい言葉に置き換えてやろうという企みは、結果としては果てしなく回る螺旋階段をひたすら下を向いて、息をぜいぜい言わせながら登っていくような始末になった。登るのは厳しく辛く、しばらくすると目眩までしてくる。スウィングの肝を表現したくて、くり返しの言葉を重ねているうちに、本人もしまいには登っているのか、下っているのか、それさえもわからなくなっていった。そのうえこの螺旋階段には窓がないので、外の風景で「上昇」なのか「下降」なのか、見上げているのか、見下ろしているのか、その判断さえもつかない。なんとも難儀な螺旋階段。書き終えてみればそれがゴルフ上達への道程の姿のようだ。なので、あまり焦らずに歩むしかない。
最後に私を育ててくれた嵐山カントリークラブというコースに感謝を述べることにした。錦鯉は池の水質と水量によって、その育つサイズと色の冴えが決まるという。私が鯉だとすれば、池は嵐山カントリークラブだ。このコースの四季の風、それに奇跡としか思えない素晴らしい地表のうねりが私にいくつもの球筋を求めてきた。それが技術を育て、それを裏打ちする理論が洗練され、単純で応用力のあるものとなった。このコースがこの本を書かせてくれたのだと本当に思う。
2016年早春
(「あとがき」より)
ゴルフに深く悩んだあなたが最後に読むスウィングの5ヵ条 完全版
発売日:2016年02月19日
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時間を掛けることなく頭を使いながらゴルフ上達への道を歩いて行きたい
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『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
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