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汗まみれジブリ史 今だから語れる制作秘話!「女性が作る飛行機の映画」宮崎駿の驚くべき決断

汗まみれジブリ史 今だから語れる制作秘話!「女性が作る飛行機の映画」宮崎駿の驚くべき決断

文:鈴木 敏夫 (スタジオジブリ 代表取締役プロデューサー)

『ジブリの教科書7 紅の豚』 (スタジオジブリ+文春文庫 編)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #ノンフィクション

俺ひとりでやれというのか

鈴木敏夫 (スタジオジブリ 代表取締役プロデューサー)

『おもひでぽろぽろ』が最後の追い込みにかかっていたある日、僕の机の上に一枚の書き置きが残されていました。

「紅の豚、俺ひとりでやれというのか」

 これがまたでっかい字で書いてあるんですよ。そんなこと言われても、全スタッフを『おもひでぽろぽろ』に投入してあるんだからしょうがないですよね。初めて人を常雇いにした第一作が成功するかどうかという重要なときです。作るのも大変なら、公開や宣伝などの仕事も大忙し。僕としても『紅の豚』にかまっている暇はないわけですよ。だから、その書き置きは無視しました(苦笑)。

 さて、『おもひでぽろぽろ』の公開直後、ようやく一息ついて、現場を二週間休みにすることにしました。ところが、まだ『紅の豚』の絵コンテができあがっていない宮さんは、ひとりでスタジオに来て仕事をすることに。さすがに放っておくというわけにもいかないから、僕も休み返上で絵コンテ作りに付き合うことになりました。

 社内にまるまる二週間、二人きりです。昼飯を食べるのも雑談もずっと二人。絵コンテを描いている宮さんが「鈴木さーん」と呼ぶから、「何ですか」と寄っていくと、「うちの家内が『おもひでぽろぽろ』を観たんですよ」と言う。

「へえ、なんておっしゃってました?」

「それがパクさん(高畑勲監督)の最高傑作だって言うんですよ。俺の作品なんて今まで一度も褒めたことないのに……」

 そんなことをブツブツ言いつつも、手は動いています。

 十五分と短いこともあって、絵コンテは順調に進んでいきました。ただ、少し進むごとに見せてくれるものを読みながら、僕としては悩んでいたんです。というのも、冒頭から主人公がいきなり豚の姿で登場するじゃないですか。しかも、普通に行動していて、町の人たちは誰もそれを不思議に思っていない。「何なんだろう? この話は」って思いますよね。

 そうこうするうちに「完成したから通しで読んでよ」と言われました。僕としては集中して読みたいんですが、そういうとき宮さんは必ず後ろで見張っているんです。そして、ページをめくるたびに、「ここはこうなんだ」と、いろいろうるさく言ってくる(苦笑)。

 最後のページに来ると、豚がマンマユート団から子供たちを救うところで終わっています。つまり、最終的な完成版の冒頭部分だけだったんです。そこで僕は思わず「え、これで終わりですか!?」って言っちゃったんですよ。

「そもそもなんでこいつ豚なんですか?」

 そしたら、宮さん怒りましたねえ。

「だいたい日本映画ってくだらないんだよ。すぐに原因と結果を明らかにしようとする。結果だけでいいじゃないか!」

「でも、こいつがなぜ豚なのかということにお客さんは当然興味を持つでしょう。そこだけでも何とかしてくれませんか?」

 そうお願いしているうちに、ジーナが登場するくだりを作ってくれたんです。「あなただけになっちゃったわね。古い仲間は……」と言って、ポルコが人間だったときの写真を見るシーンです。それで、三十分ぐらいの絵コンテになりました。

「これで終わりだよ、鈴木さん」と宮さんは言うけれど、それだけじゃ、やっぱりお客さんは納得できないですよね。そこで、「もう一個ぐらい、こいつが豚になった理由を描いてくださいよ」と言ったら、「またそんなことを言う!」と怒ってました。でも、まじめな人だから、文句を言いながらも、まだ人間だったポルコが飛行艇に乗っているシーンなども描いてくれたんですよ。

 そういうやりとりを繰り返すうちに、絵コンテは全体で六十分ぐらいになってしまいました。そこで僕は逆提案をしたんです。

「宮さん、最初は短編ということでJALさんと話し合ってきたけれど、これだけ長くなってくると、もうその枠組みには収まらないでしょう。このまま続けるなら、さらに長くして、劇場用の長編映画として作っていきましょう」

 宮さんは「いまさらそんなことを……」と言いつつも、さらに絵コンテを描き足していき、最終的には九十三分の長編にしてくれました。

 最後はご存知のとおり、空中戦をやめて豚とライバルのカーチスが殴り合うシーン。ジョン・フォードの映画そのものですよね。でも、もうこれで終わらせるしかないというのは僕も感じていたから、共犯だと思ってそのまま行くことにしました。

【次ページ】経営者・宮崎駿 女性スタッフの抜擢と新社屋建設

ジブリの教科書7 紅の豚
スタジオジブリ+文春文庫編

定価:本体760円+税 発売日:2014年09月02日

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シネマ・コミック7 紅の豚
原作・脚本・監督 宮崎駿

定価:本体1,820円+税 発売日:2014年09月02日

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