2014.05.20 インタビューほか

長期的な目線で
「穏やかな国・日本」を守るために

「本の話」編集部

『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 (半藤一利 著)

長期的な目線で<br />「穏やかな国・日本」を守るために

――誰よりも太平洋戦争の開戦に反対しながら、結果的に主力艦隊のいる真珠湾への奇襲攻撃を指揮することになった、聯合艦隊司令長官・山本五十六。この本では、五十六を軸に、国際情勢も国内情勢も非常に混み合って複雑であった時代の空気が生々しく描かれています。役所広司さんの主演で映画化もされました。役所さんは本に惚れ込み、「山本五十六について、じっくり考え、語り合うことはこれからの日本にとって極めて大切なことである」とおっしゃっています。五十六の直系の孫である山本源太郎さんは「半藤さんは山本五十六を描ける最後の書き手」と絶賛しました。

半藤 わたくしは五十六さんの長岡中学の後輩なので、ひいき目があったのかもしれませんね(笑)。ともあれ、山本五十六という人は、先を見る目があった人です。第1次世界大戦で日本は当事者国であったにもかかわらず、戦争の悲惨さや過酷さに対してリアリティを持てず、軍人も国民もその後どうなってゆくかということを想像できていませんでした。昭和8年には「満洲国」をめぐって国際連盟から脱退し、「栄光ある孤立」などとうそぶきながら、実際には単なる孤立を招いてしまいます。昭和13年には、そんな日本へナチス・ドイツが急接近。「自動的参戦条項はなくてもいい。名目だけでもよいから日独伊三国同盟を結べばいい。それを世界に発表すれば、日本の強力な海軍力で、十分に英仏を牽制し威嚇できる」という甘い言葉で近づきます。ドロ沼の日中戦争を早くに解決したい日本陸軍は、まんまとそれに乗ろうとしました。

――そこへ海軍次官時代の五十六さんが登場し、真正面から立ち向かった訳ですね。

半藤 五十六は海軍大臣の米内光政、そしてふたりが呼び寄せた軍務局長・井上成美とともに、「三国同盟に参加すれば、英仏はおろかアメリカとの大戦争にまきこまれる危険性が高い」と大局的観点に立って反対しました。ところが3人とも異端扱いされて、上層部は結局「いま、そこにある危機」のみに気を取られ、15年に日独伊三国同盟を結んでしまいます。五十六さんの見立て通りに、アメリカは日本を敵国視しました。ドイツとイギリスはすでに戦っていて、イギリスを支援していたのがアメリカです。ドイツと軍事的に手を組んだ日本は、アメリカにしてみれば、自分の味方の敵の仲間、ということになる。アメリカが戦争政策をムキ出しにして、すぐさま日本に対するくず鉄(再生して鉄材をつくる)の全面禁輸を決めました。焦慮にかられた日本は愚かな戦争へと突っ走っていくことになってしまったのです。

――この本に描かれている太平洋戦争へ向かう日本のムードは、安倍首相が集団的自衛権の行使を容認しようとして各国の顰蹙をかっている今の日本に重なるようで、読み進めるのが恐ろしくなりました。半藤さんは単行本のあとがきを「日本よ、平和で、いつまでも穏やかな国であれ」という言葉で結ばれていましたが、この3年で、この国をとりまく状況は大きく変わってしまいましたね。

半藤 五十六さんが生きていたら、安倍さんに対して「大国主義に戻るんですか?」という皮肉を言うでしょうね。きわめて短期的な視点で「日米同盟に資する」とか、隣国からの脅威をあげて「即応できる戦力を」だとかいって、行使は対象地域を日本の領域や公海に限るとしていますが、そんなに都合のよい話がある訳がありません。アメリカから強く出動を要請されれば、それを断るなんて夢想にすぎません。

――三国同盟の時のやりとりを思わせます。

半藤 国際社会で軍事力を行使できるような国が安倍さんのいう「正常な大国」であり、そこには戦前のような一大強国に戻るのだという野心がちらつくばかりです。終戦以降、日本はせっかく70年も平和な国家として、国際的信頼も定着させ、中国、韓国ともそれなりに調和を保ってやってきたのに、去年の12月に安倍さんが靖国参拝をして全部ぶちこわしてしまった。「日本は強硬な姿勢をとりたがっている」ととらえられても仕方のないことをし、歴史修正主義が過激になって隣国との関係を悪化させていると映ってしまったんです。下手をすると日本の孤立化を招くでしょう。けれど、日本は世界でもトップクラスに海岸線の長い国です。おまけに海岸沿いには五十基以上の原発があります。地政学的には守りきれない国なんです。五十六さん達の避戦のがんばりをムダにしてはなりませんね。われわれ爺は歴史を伝え続けますから、みなさんも歴史をしっかり知って、どうすべきかということをご自身の頭で考えてみてください。

聯合艦隊司令長官 山本五十六
半藤一利・著

定価:560円+税 発売日:2014年05月09日

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<新刊を読む>山本 源太郎
「半藤さんは山本五十六を描ける最後の書き手です」(単行本)