2017.09.16 書評

あなたは天才を信じるか?

文: 永田 和宏

『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』(山中伸弥 羽生善治 是枝裕和 山極壽一 永田和宏)

『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』(山中伸弥 羽生善治 是枝裕和 山極壽一 永田和宏)

 大人になったヒトの皮膚の細胞から、受精卵と同じように、多くの細胞に分化できる能力を持ったiPS細胞を作ることに成功し、再生医学のパイオニアになるとともに、ノーベル生理学医学賞を受賞した山中伸弥。

 中学生棋士としてデビューして以来、前人未到の七冠独占を達成し、さらにあと竜王戦に一期優勝すれば、名人、王位、王座、棋王、王将、棋聖を含めた「永世七冠」に至るという羽生善治。

『幻の光』で映画監督デビュー、その後カンヌ映画祭などに数多く招待され、『誰も知らない』(史上最年少最優秀男優賞)『そして父になる』(審査員賞)などの話題作を発表するなど、これからの日本映画界を中心的に担う存在の是枝裕和。

 アフリカ各地でゴリラの野外研究に従事し、ゴリラを通して人類の社会構造や進化についていくつもの新しい発見を、しかも一般の人々にわかりやすく提示してきた山極壽一。現在は京都大学総長として、いかにも京大らしい教育理念を掲げている。

 これらの人々は、知の世界のまさにスーパースター。天才と呼びたいような人々である。あなたは彼らと自分とを較べてみたことはあるだろうか。とんでもない、そんな大それたことを、と思うのが、まあ普通の反応であろう。彼らは偉い。しかし、自分とは別世界の偉人であり、とても較べるような存在ではないと思うのが、正常な反応だろうと思う。

 しかし、一度、彼らと自分とを較べてみて欲しいと思う。較べるのは、しかし、いまの彼ら、知の世界の巨人となったのちの彼らと較べるのではない。若い諸君には、ぜひ彼らの若い頃と、いまの自分とを較べてみて欲しい。

 彼らの若いとき、そう「まだ何者でもなかった頃」の彼らと、自分とはどこが違って、どこが同じなのか。

 もちろん違って当然だが、そのなかでも自分と同じだと思えるところを見つけて欲しい。将来まだ何者になるかもわからなかった頃、失敗ばかりしていて、漠然とした不安にさいなまれていた頃、大きな挫折の経験から自分に自信を失っていた頃、そんな失敗の経験は誰にもあるし、また無ければ嘘である。

 そう、こんな人たちでも、若い頃はあなたと同じように悩み、苦しみ、失敗をし、そして挫折をも経験したかもしれない。あなたにも同じような思いや経験はあるはずである。正直、羽生善治さんだけはちょっと違うのかなという思いがあるが、しかしいかなる偉人といえども、多くは「普通の若者」として自分のキャリアーの歩みを始めたはずなのである。

 しかし、彼らはどこかで「一歩を」踏み出した。その一歩は確信に満ちた一歩であったかもしれないし、おずおずと踏み出した一歩であったかもしれない。確かなことは、自分のやりたいことから逃げ出さずに、まっすぐに一歩を踏み出したことである。

永田和宏氏

 本書は、私が尊敬している四人の方々に、自らの若い頃を振り返って、「まだ何者でもなかった」精神の軌跡を語ってもらったものである。偉い人をただ偉いと奉るのではなく、彼らの話のなかから自分と同じ部分を見つけ、それならひょっとしたら自分でも、と思ってもらいたいというところからなった本でもある。

 彼らにあこがれて欲しい。あこがれは、初めから到達できない存在に対しては抱かない思いである。そうではなくて、なんとかして、少しでも彼らに近づきたいと思う心から出てくるものがあこがれである。そのあこがれを自分のものとして実現するための一歩を、本書のどこかに感じてもらえればうれしいのである。


僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう山中伸弥 羽生善治 是枝裕和 山極壽一 永田和宏

定価:本体700円+税発売日:2017年02月17日