- 2010.08.20
- 書評
家族のピンチを乗り越える、がん看病の副読本
文:はにわ きみこ (ライター)
『親ががんだとわかったら 家族目線のがん治療体験記』 (はにわきみこ 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
「お父さん、食道がんなんだって」
母からの電話に、一瞬、気が遠くなる。
例えるならば、ブツッという音とともに電源が落ち、モニターが真っ暗になったパソコンのようだ。もう72歳なのだから何があってもおかしくはない。だけど、丈夫な身体が自慢の父だったのに……。「がん=死」というイメージが、心臓をギュッと絞って呼吸を苦しくさせる。
いや、ちょっと待て。私でさえ、こんなにショックを受けるのだ。父はもっと動揺しているだろう。それを支える母だって、どうしていいかわからないはず。いつまでも私がフリーズしているわけにはいかない。
再起動した脳は「娘である私は何をするべきか」を考え始めた。
父母はインターネットや携帯メールが使えない。私が代わりにできることはいくらでもある。父のがんがわかってからは、次から次へとやるべきことが押し寄せた。
それは、悲しみにひたる時間もなく、矢継ぎ早に選択を迫られる日々だった。調査をし、情報を手に入れ、それを理解した上で父母にわかりやすくプレゼンテーションし、納得のいく決断をうながす。この時期、私は、患者(父)と看病する人(母)の専属マネージャーとして動いた。
がんの進行度は精密検査をしなければわからない。結果が出るまでの間、つい悪い想像をしてしまうこともあったが、やるべき事のリストを作り、それに全力で取り組んでいる間は、案外、冷静でいられた。
それでも困惑はある。心配なのは治療のことだけではないのだ。
手術を受けたら、父の身体はどう変わる?
治療費はいくらかかる?
父母には今どれだけのお金があるんだろう?
私や妹は、何日仕事を休めばいいの?
どんな言葉で父母を励ましたらいい?
入院前後の自宅療養には何が必要? (我が家の場合は不要品処分とリフォーム作業が必要だった)
もしもの場合、お葬式やお墓はどうする?
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