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ますます不気味な「禿鷹」の魅力

ますます不気味な「禿鷹」の魅力

文:西上 心太 (書評家)

『銀弾の森 禿鷹3』 (逢坂剛 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 マスダに対抗するために渋六興業と敷島組は休戦協定を結ぶ。しかし禿富は単独でとんでもない行動を取る。敷島組の大幹部で次期組長といわれる存在の諸橋を、マスダの秘密アジトに誘い出し、置き去りにしてしまう。敷島組から寝返ることを断固拒否した諸橋は、マスダによって殺され、その死体が渋六興業が経営する店から発見される。渋六興業と敷島組の関係が一気に緊迫する。はたして禿富の狙いは何処(いずこ)にあるのか。(『銀弾の森 禿鷹3』

 本シリーズの魅力は第一に禿鷹こと禿富鷹秋の強烈なキャラクターだろう。ヤクザ組織から毎月金を貰いながら、〈飼い犬〉であることを否定する。なぜ組織を裏切るような行動を取るのかと問われても「おれは、だれも裏切らない。なぜなら、だれにも魂を売った覚えがないからだ」とうそぶくのである。

 じっさい、月々の金は単なるコンサルタント料と思っているのだろう。しかもヤクザの幹部を自分の子分であるかのように、顎でこき使うかと思えば、もっとあくどいシノギをやれとハッパをかける。かわいそうに渋六興業の幹部たちは禿富に毒気を抜かれっぱなしなのである。

 禿富の不気味さは何を考えているかわからないところにある。金銭欲、名誉欲、性欲など、人間はさまざまな欲望を持っており、その欲望を満たすことが生きていく上でのモチベーションになる。

 だが裏返せばそれは大いなる弱点ともなる。欲望が強ければ強いほど、その人間の行動は規制され、読まれやすくなるのだ。禿富は女を抱き、金を取り、りゅうとした身なりをしているが、決してそれらに拘泥することはない。禿富とこれまで付き合ってきた女たちの運命を見ればそのことはわかるだろう。作者の叙述上のテクニックとも相まって、登場人物も読者も禿富の内面を覗くことができず、その姿がより不気味に見えるのである。

 第二が卓抜なプロットだ。狭い地域の抗争をこれだけ面白く書ける作家は稀だろう。三作目になってようやく読めてきたが、作者は私淑するダシール・ハメットの『血の収穫』の現代版をやりたかったのではないだろうか。無法の街に現れ、並立する組織の間を泳ぎ回っては対立を煽っていくコンチネンタル・オプ。どうもオプと禿富の姿がダブって見えるのだ。

 本書では終盤に渋六興業と敷島組の新たな関係が示唆され、さらに禿富の身に起きたとんでもない出来事(これは驚くぞ)のショックが覚めやらぬまま終わりを告げる。だがマスダとの全面対決は持ち越されたままだ。それが描かれるであろう、第四作をわくわくしながら待ちたい。そしてその時が来たらまた叫ぶのだ。

「待ってました!」

銀弾の森 禿鷹3
逢坂剛・著

定価:本体630円+税 発売日:2006年11月10日

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