「絵の怖さを愉しむ」という新しい視点を提唱して大ヒットした「怖い絵」シリーズの最新刊が発売された。
「このテーマでは、いったん終了と思っていたのですが、美術館で“「怖い絵」展”を開催するプロジェクトも実現できる運びとなり、だったら、もっとたくさんの絵を読者に紹介できればと思ったのです」
「オール讀物」の連載「運命の絵」でも同様、著者の絵画エッセイのコンセプトは一貫している。
「美術館にいる男性は、まるで会社に出勤する前のようなスピードで絵の前を通り過ぎる人が多い(笑)。そんな方も、たとえば、ナポレオンの絵の前では立ち止まります。それはナポレオンという人物、当時の時代背景を知っているから。『絵を感じましょう』と言われて、いざ絵画の前に立っても、色彩や構図のことくらいしか入ってこないですが、絵の歴史的・社会的背景、画家や発注者の思惑を知っていれば、より深く絵画を楽しめる」
実際、本作で紹介されている絵も、初見と、著者のエッセイを読んだ後では、見え方がまったく違ってくる。
たとえば、シャガールの『ヴァイオリン弾き』。緑色の顔の男が、三角屋根の上に片足を載せ、ヴァイオリンを奏でる有名な絵だ。音楽が流れだすような陽気な雰囲気を感じた後に、シャガールが幼少期に体験したユダヤ人迫害や、54歳のときのヒトラーのフランス侵攻からの逃亡など、激動の人生を知ることで、シャガールの内面が想像できるようになる。そうすれば、ヴァイオリンの演奏が「人間の運命を歌い上げる孤独なバックミュージック」に聞こえてくるではないか。圧巻は、白い雪の上の靴跡についての記述だ。右からユダヤ人の家を目指して進み、左から出てくる靴跡の一つが、鮮血を踏んだごとく真っ赤だというのだ。
装丁にも使われているミレイの『オフィーリア』は、シェークスピアの四大悲劇の一つ「ハムレット」を題材にした作品。「美と死の合体」を描いた傑作だが、モデルとなったリジーという女性の壮絶な人生を知ることで、「怖い絵」へと変貌する。
「背景を知りすぎると、純粋に絵を見る妨げになるという批判もありますが、私は違うと思います。良い絵というのは、どんな状況で見ても、何かを感じられるものですから」
「怖い絵」展は、2017年7月の兵庫県立美術館を皮切りに、10月には上野の森美術館で開催される。
「このシリーズで紹介した絵画をたくさん借りるべく頑張っていますので読んで、見て楽しんでもらえたらと」
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