- 2014.08.06
- インタビュー・対談
対談 石持浅海×水谷奏音
1度目は熱い官能小説として、2度目は怜悧な本格推理として再読を愉しめる『相互確証破壊』
『相互確証破壊』 (石持浅海 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
ディスカッション小説、 超常現象小説、冒険小説―― 作品ごとに新たな仕掛けで読者を驚かせる 石持浅海さんの新刊『相互確証破壊』は“官能ミステリー”。 石持作品をこよなく愛するフォーチュンカウンセラーの 水谷奏音さんに、著者は新作のメイキング・オブを語った。
――今日は石持浅海さんの『相互確証破壊』刊行記念対談に、フォーチュンカウンセラーの水谷奏音さんをお迎えしました。水谷さんはご自身でも『12星座殺人事件』(文藝春秋)という光藤ひかりさんとの共著で星占い部分を執筆されており、幅広くミステリーを読まれているということですが、一番好きなミステリー作家が石持さんだとうかがいました。
石持 実は以前ツイッターでお声掛けいただいたことがありまして。
水谷 面識のない方にメッセージを差し上げるのはどうかとも思ったんですが、思い切って「ファンなんです」とお送りしてしまいました。今日はすごく緊張しています。
『相互確証破壊』は、石持さんの作品でここまで官能が押し出されているものははじめてでしたので衝撃を受けました。官能とミステリーを絡ませる、という発想はどこから生まれたのでしょうか。
石持 官能ミステリーを書いてほしい、と「オール讀物」編集部から依頼を受けたんです。官能シーン自体はそれまでの作品でも書いているので出来るだろうと。ただ、官能を前面に出して読者を喜ばせるのが大前提だと聞きまして、そこにどうやって謎解き部分を入れ込むかが勝負だと思いました。
水谷 第1話「待っている間に」は石持さんお得意のクローズド・サークルものですね。
石持 まだ手探りの部分がありましたので、得意な“枠”を作って、そこに内容を落とし込みました。
水谷 会社にお勤めですが、会社員としての視点がしっかりと盛り込まれている作品だと思います。社内不倫が出てきますが、身の周りの出来事を参考にされているのでしょうか。
石持 私は現実の人間を登場人物のモデルにすることはまずないです。たとえば水谷さんをモデルにしようとすると「水谷さんはこんなことはしない、水谷さんはこんなことは言わない」と、制約がかかってくるんですね。しかし今回の作品集を読まれると、会社員は浮気と不倫しかしてないのか、と思われるかもしれませんね。6話中3話がそういう話なので。
官能小説って男性にとってのファンタジーなので、今回は女性読者にどう思われるかということは正直あまり気にしていませんでした。
水谷 第1話に限らず冷徹で怖いヒロインが多いですね。
石持 官能小説には、女性キャラクターを男性キャラクターの都合のいい設定にする男の願望充足的な書き方もありますが、ミステリーの場合、キャラクターが一人一人自立していないと成立しません。女性をしっかり自立させると、男性に対するカウンターになり、そこに謎が生まれるのです。でも行為の最中にまで女性がサバサバ、ドライにならないように、その切り換えは気を付けて書いています。
水谷 会社の保養所で不倫する妻子持ちの男性と若い独身女性の話ですが、最初は頼りになりそうな男とかよわいヒロインかと見えていたのが、どんどん逆転していきますね。男性が護ろうとするのが結局は家族なのだ、とヒロインが知ったとき―—。
石持 たぶん男性は、家族のほうが大事、という意識はないんですよ。あれでも目の前の彼女を大事にしているつもりなんです。でも女性からはそうは見えない。
水谷 わたしは結婚していないので、どちらかというと女性のほうに感情移入しやすくはあります。石持さんはご結婚されていますよね。そこが作品に出ている気はしました。
石持 独身の同業者が私の本を読んで「まだ女性に夢を持っていたいのに」と言ってくることはあります(笑)。