書評

「ブラック企業」はこうして見極めろ!

文: 森 健 (ジャーナリスト)

『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』 (今野晴貴 著)

年が明け、ますます本格化している就活。しかし内定を欲しがる学生たちに忍び寄るのが、「ブラック企業」の魔の手だ。「正社員」という餌をぶら下げ、若者を使い潰す問題企業に就職しないために何が必要なのか。そして、有名企業も“ブラック化”する現状とは──。

グローバル化の流れと一体

 こうした違法な労働を強いる企業が増えたのはリーマンショックが起きた5年ほど前からだと笹山氏は言う。

「まず起きたのが派遣切り。それは派遣社員という有期雇用が対象でした。そのあとに正社員を対象にしたブラック企業が顕在化してきた」

 こうした企業に共通するのは、「正社員」を殺し文句に若者を採用し「使い潰す」まで働かせることだ。

 派遣社員の場合、業務の範囲が明確に規定されており、無茶な命令をされても従う必要はない。だが、正社員はまさに「正社員」だという理由で無茶な命令に従ってしまうのだ。

 不況による就職難が、若者の「正社員志向」を生み、それが、社員を換えのきく「消耗品」として極限まで働かせるブラック企業を生み出してきた。

「弱肉強食のグローバル化の流れと一体化しているとも言え、ブラック企業の従業員規模は零細・中小から大企業までどこにでもある。そのために見分けるのは容易ではありません」(同前)

 事実、「ブラック企業」と名指しされている企業には、誰もが知る会社もある。

 昨年七月に行われた「ブラック企業大賞2012」では、ワタミ、ウェザーニューズ、すき家(ゼンショー)などがノミネートされた。

 労働者なら誰でも加入できる労働組合「首都圏青年ユニオン」の発表によれば、ワタミやウェザーニューズでは、入社から数カ月の新入社員が過労自殺に追い込まれており、すき家は時間外労働の未払いや違法な労働条件などで提訴されている。

 暴力や賃金未払いなどの明らかな違法行為なら問題はわかりやすい。だが、企業の「体質」となると判別が難しいのだ。カリスマ的な創業者の言葉を宗教のように暗誦させたり、社員同士で過剰な競争をさせて脱落した者を追い出す、社員が“自発的”に“研修”するような異常な労務状況が作られる、といった「企業風土」や「企業体質」は一概に違法と判断しにくく、ブラック企業と即断するのも難しい。

「社会経験がない素朴な新卒社員は、それを我慢すべきか、異常かどうかという判断基準がない。そこにブラック企業がつけこむ隙があります」(同前)

若者を大量採用し使い捨てる

 では、ブラック企業や、ブラック企業的な体質を持つ会社に就職しないためにはどうすればよいのか。

 しばしば指標とされるのは離職率だ。厚生労働省の新卒入社の3年後の離職率調査で比較した際、もっとも高いのは「宿泊・飲食サービス業」や「教育・学習支援業」で、どちらも48%以上と3年で約半数近くが辞めている。これは「製造業」の15.6%や「電気・ガス・熱供給・水道業」などのインフラ系の7.4%と比べるといかにも高い。

 だが、離職率が低いからブラック企業でないとは言えない。

 たとえば、現代を代表する「情報通信業」は25.1%と全体平均の28.8%と比べてもやや低いくらいだが、この業種にもブラック企業は忍び込んでいる。

 横浜市に住む川上さん(仮名)が都内のITコンサルティング企業B社をやめたのは昨年8月。

 川上さんがB社に入社したのは2010年秋。システムエンジニア(SE)として採用された。基本的な仕事としては、顧客のもとへ通い先方の要望するウェブサービスを立案、仕様書にまとめたのち、外部のエンジニアやデザイナーに発注するというものだった。

 だが、その仕事のとり方に無理があったと川上さんが振り返る。

「『話をつけてきた』と上司がいう客先に行ってみると、どう考えても外部スタッフが受けてくれない金額と内容、納期。条件に対して単価が安すぎた。案の定その案件を過去に仕事をしてもらった外部に相談に行くと拒否。帰って報告すると『誰でもいいから作り手を探してこい!』と怒鳴られる。結果、そのツケはこちらに回されました」

 昼は通常の営業コンサルを行い、夜は会社で泊り込みで制作。土日もなく、家に帰れたのは週2回という状況だった。そこまで努力したものの、一部の工程で納期を守れなかった。すると、顧客からディスカウントを要求されたとして川上さんの給与も減額された。

 そんな無理な仕事に加え川上さんが耐えがたかったのは、「指導」という名のいじめだった。

「全体会議などで『●●は先月200万円』などと個別の売上の比較をしたうえで、あまり稼げなかった人に『お前さ、どういうふうに仕事をしているのか、実演してみろ』と劇のようなことをさせられた。それを部内のみんなが笑ってバカにするという構造。これは精神的に相当応えました」

 数カ月勤務する中で川上さんが気づいたのは、できる社員、すなわち営業成績がよい社員は若くても優遇するが、営業成績が悪い社員はこの『実演』をさせて辞めさせる態勢に入るということだった。

 最終的に「うつ病」という診断結果で会社を辞めることになった川上さんは、B社にいた2年弱の日々は「罰ゲームのようだった」と振り返る。

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ブラック企業

今野晴貴・著

定価:809円(税込) 発売日:2012年11月19日

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〈自著を語る〉若者と、日本の未来を奪うブラック企業(今野 晴貴)