- 2014.09.12
- 書評
科学ジャーナリストが描き出す
少年王の「死後の奇妙な物語」
文:木村 博江 (翻訳家)
『ツタンカーメン 死後の奇妙な物語』 (ジョー・マーチャント 著/木村博江 訳)
ジャンル :
#ノンフィクション
著者のジョー・マーチャントもツタンカーメンに魅せられた一人だった。マーチャントは遺伝学と医療微生物学で博士号を、サイエンスコミュニケーションで学位を取得し、「ネイチャー」「ニューサイエンティスト」の編集者を務め、「ガーディアン」「エコノミスト」に記事を執筆、という経歴の持主である。科学ジャーナリストとしての客観的な視点と同時に、難解になりがちな内容をまるでドラマのように仕立てていくすぐれた文章力と、豊かな想像力をあわせもっている。
前作『アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ』(文春文庫)では、地中海の小島アンティキテラの海底に沈む古代ギリシアの沈没船から発見された物体の謎を探った。「アンティキテラの機械」と命名されたその物体は30個もの歯車をそなえ、地球から見た太陽、月、惑星の動きを表示することができ、日食や月食の日にちもわかるという驚異的な能力をそなえていた。その機械の秘密が100年の歳月をかけて明かされるまでを克明に追う内容で、世界的に高く評価された。
マーチャントは今回、古代エジプトの若き王ツタンカーメンについて書くにあたり、2年にわたって膨大な数の研究者に連絡をとり、綿密な取材と調査をおこなった。エジプト考古学の大物ザヒ・ハワスにも直接会って果敢に話を聞く場面は、スリルに富んでいる。そしていかなる相手に対しても敬意を払い、つねに一面的でない見方が貫かれている点は、真に優秀なジャーナリストと言えるだろう。本書にはすでに「ミステリーとしても第一級」(「ブックレビュー」)、「黄金の仮面がはがされた。刺激的な読み物」(「ネイチャー」)、「きわめて楽しく、鋭い洞察にあふれている」(「ザ・ガーディアン」)など、多くの賛辞が寄せられている。
ツタンカーメンについてこれまで最先端技術を駆使して研究調査がおこなわれてきたとはいえ、彼がどのような人物であったのか、実像が完全に明かされたわけではない。カーターは、「私たちはまだツタンカーメンの生涯の謎を解明していない――影は動いているが、闇がとりのぞかれたわけではない」と記した。ツタンカーメンが死後にたどる奇妙な物語には、これから先もまだ続きがありそうだ。
(「訳者あとがき」より)
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