- 2014.08.16
- 書評
脳トレ・ブームに騙されるな!
文:成毛 眞 (書評サイト「HONZ」代表)
『錯覚の科学』 (クリストファー・チャブリス ダニエル・シモンズ 著/成毛眞 解説/木村博江 訳)
心理学や脳科学という学問は、物理学や数学などに比べると、どこか胡散臭(うさんくさ)く感じてしまう。理論が数式で表現できないということだけでなく、バラエティ番組で取り扱われるようなお手軽さと、一部の専門家のたくましい商魂に呆れるからだ。何十年も前から、親しみやすい風貌をした何人もの専門家がテレビに登場しては「頭の体操」、「脳トレ」、「アハ体験」などと称した自著やゲームを売りまくってきた。
そんなに効果のあるものであれば公教育でも取り上げられる可能性があるはずだし、むしろ効率をもって旨とする学習塾や社員教育などでとっくに使われているはずだ。しかし、脳トレやアハ体験のおかげで事業に成功したり、勉学の成果をあげたという人に会ったことはない。本書はそのような疑問に見事にこたえてくれた。
MRI装置などを利用して、脳トレをすると脳内の血流量が増えたというような研究はけっしてインチキではないのだろう。しかし、血流量が増えたから認知能力が向上したというのはかならずしも証明されないようなのだ。たとえば、一九九八年に米国国立衛生研究所がバックアップして行われた、大規模な臨床実験のエピソードだけでも一読にあたいする。
この実験の結果明らかになったのは、脳トレ・ソフトに装備されている、視覚探索力を鍛えるトレーニングや、言葉を記憶するトレーニングなどを行っても、鍛えられるのはそのソフト特有の問題を解く力だけだというのだ。あらたに身に付けた能力をほかの問題に応用できるわけではない。数独やクロスワードパズルでも同様であり、クロスワードパズルをしている人も、していない人も同じ割合で脳は衰えていくのだという。
著者たちは脳内の活動を映し出したカラーのスキャン映像を「脳ポルノ写真」と呼ぶ。神経科学者たちは、これらの画像は脳の理解を深めるより、自分の研究の営業ツールとしての意味あいが強いことを自覚しているというのだ。これこそが本書の読者にとって、まさにアハ体験である。
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