書評

シリーズ初の全作書き下ろし

文: 杉江 松恋

『禁断の魔術 ガリレオ8』 (東野圭吾 著)

ひがしのけいご/1958年大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒業。85年『放課後』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。99年『秘密』で日本推理作家協会賞、2006年『容疑者Xの献身』で直木賞、12年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で中央公論文芸賞を受賞。 文藝春秋 1470円(税込)

 東野圭吾〈探偵ガリレオ〉は、幅広い作域を持つ作者が理工系出身者の知識を総動員して独創的なトリックを考案することに挑んだ、ミステリー史上でも他に類を見ない画期的な連作である。巻を重ねるにつれて、探偵ガリレオこと湯川学が解く謎は、物理現象を扱ったものだけではなく人間の盲点をつく心理トリックにまで拡げられていった。その結果、湯川学の人物像が掘り下げられ、際立った魅力を放つようになっていったのである。謎解きの関心が人間ドラマと結びついた理想的な連作といえよう。

 八月に第七作『虚像の道化師』が出たばかりだが、早くも最新作『禁断の魔術』が世に出ることになった。全四作がすべて書き下ろしという力の入った短篇集である。巻頭の「透視(みとお)す」では、冷静沈着な湯川をたじろがせた女性が殺人事件の被害者となる。彼女はクラブのホステスで、初対面の客の名刺に書かれた事柄を見ずに当てるという特技の持ち主だった。湯川をもってしても、そのトリックを見破ることはできなかったのだ。彼女にしてやられ、くやしがる湯川の姿は読者の微笑を誘う。続く「曲球(まが)る」で湯川が出会ったのは、三十八歳で戦力外通告を受けたプロ野球の投手だ。彼の妻は不幸にも強盗殺人の犠牲者となった。その死に残された謎と、投手の人生を左右する問題の二つに湯川が答えを出すことになるのである。

 本書の収録作では「誰が」、つまり犯人当てよりも「なぜ」、すなわち人の行動の理由を問う要素が明らかに大きい。三番目の「念波(おく)る」では、殺人未遂の被害者が双子の妹にテレパシーで危機を報(しら)せたというのは本当か、という謎に湯川が挑むことになるのだが、ここでも動機の問題に焦点が当てられる。

 また、本書における湯川は単に事件の謎を解くだけではなく、関係者たちの人生に生じたもつれやほころびを元に戻す役割を担っている。収録作中では最長の「猛射(う)つ」では、フリーライターが殺害された一件が発端となり、ある犯罪計画の存在が浮かび上がってくる。その渦中にいるのは、湯川にとって見捨てることができない人物なのだ。二〇一一年に発表した長篇『真夏の方程式』において作者は、少年に科学の奥深さと魅力を説く、学究の徒としての湯川の姿を描いた。それを彷彿とさせるのがこの作品である。湯川はあくまで科学の正しさを信じ、それが悪用されないように身を挺して防ごうとするのだ。冷たい推理機械ではない。熱い魂を持った湯川学がここにいる。

東野圭吾『禁断の魔術 ガリレオ8』特設サイト

東野圭吾ガリレオシリーズ特設サイト『倶楽部ガリレオ』



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禁断の魔術東野圭吾

定価:本体660円+税発売日:2015年06月10日