書評

さようなら 宇江佐真理さん、杉本章子さん
《思い出を語る》中村彰彦×諸田玲子

惜しまれる死

宇江佐真理(うえざまり)
1949年北海道生まれ。95年「幻の声」でオール讀物新人賞を受賞。2000年『深川恋物語』で吉川英治文学新人賞、01年『余寒の雪』で中山義秀文学賞受賞。3月11日に伊三次シリーズ最新刊『擬宝珠のある橋』(小社刊)が発売予定。

中村 北海道在住の宇江佐真理さん、福岡県在住の杉本章子さんという、人気も実力も兼ね備えていた女性の時代小説作家2人が昨年11月7日、12月4日に相次いでお亡くなりになりました。しかもお2人は、よく電話で話をする親しい間柄でもありました。

諸田 お2人とも乳がんでしたね。毎年、宇江佐さんとは、朱川湊人さんをまじえて12月の菊池寛賞のパーティーの後、忘年会をやるのが恒例だったんです。だから昨年末も集まって、「今年は宇江佐さんはいないけれど、彼女に献杯しましょう」と言っていた、まさにその時間に杉本さんがお亡くなりになったことが後でわかりました。

中村 ああ、たしかに菊池寛賞の夜でしたね。僕は杉本さんの訃報を翌日の朝に編集者からの連絡で知ったんですが、その日の夕方になんと、彼女からのお歳暮が届いたんですよ。

諸田 えーっ!

中村 去年の春あたりからホスピスに入ってらっしゃったので、お手伝いさんに頼んでのことだとは思うんですが。

諸田 お2人とも気配りの人でしたよね。私も宇江佐さんから実用的なものをよく贈っていただきました。これは偶然なんですけど、宇江佐さんとはお亡くなりになる2週間前、杉本さんとは10日前に電話でお話しすることが出来まして。

杉本章子(すぎもとあきこ)
1953年福岡県生まれ。89年『東京新大橋雨中図』で直木賞受賞。95年福岡県文化賞、2002年『おすず 信太郎人情始末帖』で中山義秀文学賞を受賞。2月中旬に遺作となる、「お狂言師歌吉うきよ暦」シリーズ『カナリア恋唄』(講談社)が発売予定。

中村 どんなお話をされたんですか?

諸田 宇江佐さんは「あのねえ、諸田さん、小説がどうのって、今、私の頭にはもうなくなったのよ」と。

中村 小説のことを考えられないくらい、ご体調が悪かったんですね。

諸田 そんなことをおっしゃったのは最後だけです。それまでは、「『髪結い伊三次捕物余話』シリーズだけは何があっても書き続けたい」と言ってましたから。

中村 杉本さんは、ホスピスのベッドでも原稿用紙に向かっていたんですね。亡くなる5日前に、本人はしゃべれないということで、お手伝いさんから僕に電話がありました。夕方になると少し体調が良くなるのか、もう少し書けば単行本になるという『小説現代』の原稿に向かい、でも薬のせいで途中で寝ちゃったりもするという話を聞きまして。これが私の知るほぼ最後の杉本さんの様子です。

諸田 私が最後にお電話したときはなんとかぎりぎり直接お話しできて、「ホスピスに来て、史料を大量に持ち込んで小説を書いている人なんかいないわよ」ってすごく威張ってました(笑)。

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