- 2017.12.16
- 書評
必ず本編をすべて読み終わってから読んでほしい解説
文:大矢博子 (書評家)
『ずっとあなたが好きでした』(歌野晶午 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
ネタバレ注意! くれぐれも本文読了後にお読み下さい。
さあ、これだけ警告したのだから、遠慮せずはっきり書くとしよう。
本文をすでにお読みのあなたならご承知の通り、本書は確かに「主人公の年齢も環境もばらばら」で、まったく異なるタイプの恋愛ミステリを並べたように見えるが、実はひとりの男の小学生時代から還暦過ぎまでの恋愛遍歴を描いた大河小説である。
読者が「あれ?」と思うのは「女!」の最後の二行だろう。そしてそれに続く「錦の袋はタイムカプセル」で、それまでの十一編がすべてつながり、ひとりの男の人生だったことが種明かしされるという次第だ。主人公の名字が違うこともその中で説明されるし、途中で終わっていた「匿名で恋をして」の謎解きも「錦の袋は~」で完結する。
作中で説明されたことはここでは繰り返さないが、他にもヒントはかなり出されていた。たとえば主人公が成人している話では、喫煙者であることか車が好きであること、あるいはその両方が全ての話に登場するというのもそのひとつ。
それ以外にも細かい繫がりが幾つもあるのだが、それを確かめるには、時系列順に再読してみるのがいちばんだ。と同時に実は大事なのが初出、つまり雑誌に発表された順番なのだが、まずは時系列で並べ直してみよう。こういう流れになる(タイトル後の数字は発表順)。
「遠い初恋」(6) 小学校五年生、小樽
両親の仲が悪いという情報あり。好きな子でも離れたら意外とあっさり忘れた。
「ずっとあなたが好きでした」(2) 中学三年生、神戸
地名から兵庫県だとわかる。大和という姓を名前だと思った読者も多いのでは。
「マドンナと王子のキューピッド」(1) 高校二年生、広島
想いを寄せる先輩とは「ずっと~」の三千穂。恋に落ちたときの描写も同じ。
「別れの刃」(4) 大学一年生、東京
太腿にケガをする。以降の作品に、古傷や走れないという記述が頻繁に登場。
「まどろみ」(5) 大学四年生、東京
大輔という名前が初めて登場。弟の誕生と両親の話は「マドンナ~」から継続。
「女!」(9) 大学四年生(「まどろみ」より少し後)、東京
「まどろみ」とこれを続けて読むと、世之介というあだ名の説得力たるや。
「舞姫」(11) 就職一年目、パリ
入院は「別れの刃」のケガ。フランソワーズは黒髪が「ナチュラル」との描写。(ちなみに森鷗外の恋人は日本まで追いかけてきたが、鷗外の母に追い返された)
「匿名で恋をして」(8) 三十歳を過ぎたところ、東京
大恋愛の末の大失恋、とは黒人のフランソワーズと破談になったことを指す。
「ドレスと留袖」(7) 四十代、名古屋に単身赴任
ナガシマさんだしジャイアンツファンですね、の台詞が「匿名で~」のヒント。
「黄泉路より」(3) 五十代、離婚して東京?
浮気はしたが妻には気づかれることなく云々、の一例が「ドレスと留袖」。
「幻の女」書き下ろし 五十代、熊本
娘が今では二児の母、というのは「黄泉路より」の愛奈とその恋人のこと。
「錦の袋はタイムカプセル」書き下ろし 六十歳、小樽
すべてのネタばらし。「遠い初恋」がここに帰結する。
「散る花、咲く花」(10) 六十~六十一歳、小樽
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