2017.12.15 書評

トランプ大統領出現を40年前に「予言」した書

文: 小松実盛 (小松左京ライブラリ)

『アメリカの壁』(小松左京 著)

『アメリカの壁』(小松左京 著)

 短編集『アメリカの壁』には、シミュレーション小説の表題作「アメリカの壁」をはじめ、ミイラ化しながらも現代まで眠り続ける古代マヤ人の秘密に迫る「眠りと旅と夢」、不可思議な事件に挑む大杉探偵シリーズ二作、そして、女性をテーマに一九七一年から書き続けた女シリーズの最終作「ハイネックの女」など、バラエティにとんだ六編が収録されています。

 各作品の紹介の前に、この短編集そのものの特徴をお話しさせていただきます。

 短編集を組む場合、ホラーばかりを集めたり、あるいはコミカルな作品を集めたりと、テーマを決めて組まれる場合もありますが、本短編集『アメリカの壁』は、一九七七年から一九七八年に執筆していた当時の最新作を集めています。そのため、この時代における小松左京作品の様々なテイストを味わえるものになりました。

 ジュラ紀の地層から見つかる恐竜やアンモナイトといった化石からその時代の生物の生態が判るように、この短編集からは、一九七七年から一九七八年にかけての小松左京の創作活動の実態が浮き彫りになります。

 父、小松左京にとってこの頃は、一九七〇年の大阪万博のプロデュースを終え、社会現象にまでなった一九七三年の『日本沈没』の大ブームも落ち着き、比較的穏やかな時代でした。とはいえ、専門誌である「SFマガジン」でのSF作品、「週刊小説」「オール讀物」といった中間小説誌での娯楽作品、また「小説推理」でのミステリ風作品と、同時進行で次々に発表していました。またほぼ同時期、角川書店の「野性時代」では、後に短編集「ゴルディアスの結び目」にまとめられる連載、さらに朝日新聞では「こちらニッポン…」の連載をしていました。

 発表媒体ごとに読者の好みも異なるものです。それ故に、この時期に執筆されたものを集めた短編集の作品も、様々なテイストの集合体となりました。

 小松左京の作品をあまり知らずに、表題作「アメリカの壁」を読んでから他の作品を読み進めると、いったいどういう作品集かと少し戸惑われるかもしれませんが、このような事情であったことをご理解いただければと思います。

 また、この短編集でお読みになった中で、好みにあったものがあれば、それらに関連した小松左京作品も体験していただければ幸いです。

「アメリカの壁」
 本短編集の表題ともなった「アメリカの壁」は、「SFマガジン」一九七七年七月号に掲載されました。ジャンルでいえば、現実世界にとてつもない出来事が起こるさまをリアルに描きだす、シミュレーション的要素の強い作品群の一つです(政治的な動向に重点を置いているためポリティカルフィクションともいえます)。

 超大国アメリカが白い霧の壁に完全に覆われ、外部との接触が一切不可能になる話であり、アメリカを世界から完全に遮断させる状況を創り上げることで、国際政治、世界経済、軍事的バランスにおいて欠くことの出来ないアメリカ合衆国の真の存在価値と、そこに潜む闇を浮き彫りにしています。



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