書評

フランス革命も、アメリカ独立も――歴史はいつも会計士が作ってきた!

文: 山田真哉 (公認会計士・税理士)

『帳簿の世界史』(ジェイコブ・ソール 著)

『帳簿の世界史』(ジェイコブ・ソール 著)

 メディチ家やフランスをはじめ、オランダ、イギリス、アメリカなど、本書には会計の徹底化によって富み栄え、力をつけた組織や国がいくつも登場します。組織や国が繁栄するためには、帳簿が文化としてきちんと根付いていることが大事なのです。

 それは、今の時代でも変わりません。私はよく、「会計とは人をクールダウンさせるツールだ」と言っています。企業経営においても、帳簿を顧みることのない経営者は、しばしば無計画な新規展開を始めたり、気に入った人材を手当たり次第雇用したりして、自社をダメにしてしまいます。一方で、帳簿を片手に持つ経営者は冷静な判断を下すことができ、無謀な経営とは距離を置くことができます。


 しかし、この「帳簿の力」は、いつの時代も軽視されがちです。たとえばメディチ家は、コジモの息子の代になると会計を疎んじるようになり、わずか三世代で没落してしまいました。小型帳簿を持ち歩いていたルイ一四世も、自分の失敗をも白日の下にさらしてしまう帳簿をやがて遠ざけるようになり、散財の果てにフランスを破綻させてしまいました。会計は味方にすれば心強い存在ですが、一旦敵に回してしまうとあっという間に組織を崩壊させてしまう怖い存在でもあるのです。


 日本でも、たとえば粉飾決算が問題になったオリンパスや東芝、最近では格安旅行会社のてるみくらぶなど、「会計の嘘」によって信用を失ったり、社会的な問題に発展したりするケースは後を絶ちません。それに対し、メディアや株主は徹底的な情報開示を求めて争います。

 本書を読んで驚いたのは、そうした対立は歴史上、何百年も前から繰り返されていたという事実です。古くはオランダの東インド会社においても、株主たちは帳簿の情報開示を強く求めていました。会計の透明性を求める戦いは、一進一退を重ねながら、今もなお続いているのです。


「権力とは財布を握っていることである」というアレクサンダー・ハミルトンの言葉からもわかる通り、歴史上、帳簿は権力の源泉になってきました。今でも、決算書の数字によって企業の株価が上下し、社長の進退までも決まります。しかし、権力の源泉であるがゆえに、帳簿は不正とセットの存在でもありました。

 かつて帳簿(すなわち権力)は不正だらけでした。その作成はすべて密室で行われ、決して公開されることはなかったのです。しかし、イタリアで、オランダで、フランスで、イギリスで、そしてアメリカで、会計士たちを中心に多くの人々が時には激論を交わし、時には血を流すことで、帳簿は徐々に透明性を獲得してきました。

 今、私たちが当たり前のように使っている「会計」「決算」というものの裏には、そうした熱い物語があったのです。歴史とは権力の変遷です。そして、権力の源泉が帳簿だとすれば、帳簿こそが歴史の主役だったとも言えるでしょう。つまり本書は、そうした視点から世界史を捉え直した非常に優れた歴史書であります。私にとってはこの十年でいちばん好きな本、大切な一冊です。

帳簿の世界史ジェイコブ・ソール 村井章子訳

定価:本体880円+税発売日:2018年04月10日


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