2018.06.06 特集

【冒頭立ち読み】『辺境の思想 日本と香港から考える』(福嶋亮大 張 彧暋・著)#2

文: 福嶋亮大

本書のまえがきを2回にわけてお送りします。

『辺境の思想』(福嶋亮大 張 彧暋・著)

 事前の打ち合わせのなかで、張さんは日本における「ネーションの近代化」と香港における「都市の近代化」を比較したらどうかという興味深いアイディアを出してきました。日本列島に残されたさまざまな伝統の蓄積を取捨選別し、西洋の文物を受け入れながら「ネーション」を統合する大きな物語(ナショナリズム)を作り、富国強兵と殖産興業を推し進める――、これが日本の近代化のプログラムでした。それに対して、一九世紀半ばの阿片戦争後に開港され、長くイギリスの植民地となった香港には、そのような肉厚の歴史がありません。香港にとってはむしろ、都市を移民に向けて開放し、猥雑な文化を育てていくところに「近代」の体験があったわけです。

 世界各地でナショナリズムへの回帰や右傾化が起こり、一部の香港人も独立を志しているとはいえ、香港を発展させてきた都市の開放性は本来ナショナリズムの排他性とは合いません。だとしたら、今日の香港ナショナリズムとはいったい何を目指す政治運動なのか? 香港のネーションとしての「独立」は望ましいのか? 逆にナショナリズムによって発展してきた日本は、これから都市的なものをどう吸収することができるのか? これらの厄介な問題は本書でも取り上げられることになるでしょう。 以上をまとめると(1)似て非なる他者を鏡にして、日本および香港の自己認識の座標を再検証すること(アイデンティティの次元)。(2)日本と香港に蓄えられた遺産を分析しつつ、世界とのつながり方を改めて考えてみること(文化の次元)。(3)ネーションと都市の差異を手掛かりにして政治的ヴィジョンを構想すること(政治の次元)。この三つが本書の大きな柱となる予定です。



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定価:本体1,800円+税発売日:2018年06月01日