「そりゃあ、こんなことしてりゃ熱くもなる」
Tシャツをまくりあげられる。
「布団敷きませんか。あと、電気も消しませんか?」
「後でな」
そうつぶやいた直後、乳首を咥えられた。いつの間にかブラジャーは外されていた。反対側の乳首も指で挟まれる。
煙草を咥えて弄ぶ、色の悪い全さんの唇が脳裏に浮かぶ。視界には皺の寄ったTシャツと全さんの頭しかないのに、舌や唇や指先の動きが鮮やかに見える。自分の乳首が尖っていくのがわかった。痛いような、むず痒いような。いままで意識したことのない体の部位に神経が集まって、呼吸が苦しい。
ふいに、歯をたてられた。声がもれる。自分の声ではないみたいな高く鋭い声だった。目が潤んで、天井の木目がぼやける。また、噛まれる。「いたいです」と言うと、唇で柔らかく挟み、舌先で慰めるように舐めてくる。甘い感触に身をゆだねていると、急に痛みを与えられる。その度に声がもれ、毛穴から汗がにじみでた。
もどかしくなってTシャツとブラジャーを脱ぐ。どうひいき目に見ても女性らしさの欠片もない平べったい胸。その上に手が届くことはないと思っていた男の額が見えた。頭を抱く。かたい髪が腕の内側でごわごわした。もう絶対に逃がさない。そう思った。腕に力を込める。
「意地悪しないでください」
全さんの動きがとまる。
「遊ばないで、傷つけるなら、ちゃんと傷つけてください」
全さんはなにも言わなかった。笑われたような気配がした。笑わないでください、と言うつもりだった。けれど、全さんの手がするりと私の腹の上をすべっていき下着の中に入ってきて、声がでなくなった。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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