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死者に寄り添い、その言葉に耳を澄ますということ

死者に寄り添い、その言葉に耳を澄ますということ

文:平松洋子 (エッセイスト)

『原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年』(堀川惠子 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #ノンフィクション

『原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年』(堀川惠子 著)

「――じゃから、遺族が分かるということのほうが奇跡なんよね……。でもそれもまた、本当は違うとるかもしれん、だけど、もし何か手がかりが見つかったら、それは伝えんといけん。いらんと言われても、伝えるだけは伝えんといけん。それは知った者の務めよね」

 固唾をのむ著者の気配が伝わってくる。

 では、生きる者は何を伝えるべきか、何をなすべきなのか。

「現実は厳しいからね。二〇〇〇柱、名前の分かっとる遺骨があって、その中のたった一〇人とか二〇人くらいしか、本当の真実はないかもしれん。だからといって、それを捨てることはできんのよ。死者を見捨てることは、できんのよ。名前や住所が違うとるのは、生きている者のしわざじゃから。あそこに眠る死者たちはみんな、息をひきとる前に家族のもとに帰りたいと思いながら、自分の名前や住所を伝えていかれたんじゃから。その気持ちを考えるとね、知ってしまった人間として知らんふりはできんのよ」

 著者を、佐伯さんは質したのである。終生いかなる政治組織や団体にも属さず、一市民として原爆供養塔の守り人であり続け、志半ばで病に倒れた悔しさもにじむ。くわえて、おたがい真実に近づこうとする者同士としての、連帯の表明でもあったろう。正義感や使命感だけではない、「知らんふりはできない」とは、つまり生き方に関わる問題なのだ。

文春文庫
原爆供養塔
忘れられた遺骨の70年
堀川惠子

定価:990円(税込)発売日:2018年07月10日

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