2018.08.31 特集

髙見澤俊彦 『音叉』刊行記念エッセイ「1973 あの頃の僕へ」#2

文: 髙見澤俊彦

オール讀物2018年8月号より

【1よりつづく】

8月18日「音叉」サイン会にて

 当時僕が大学生活に刺激を感じられなかったのは、多分高校と同じ敷地だったということもある。高校の頃から、大学構内を友人達と探検と称してウロウロしていたから(高校の規則では禁止されていた)、大体どこに何があるかは把握していた。目新しいものは何もなかったのだ。英文科の女子の存在は目新しくもあり、眩しくもあった。が……恋愛に発展するまでにはいかなかった。それはそれで、今思えばちょっと残念だったかもしれない。

 そんなある日の昼下がり、英文科で一年先輩のちょい派手で綺麗なIさんに、学食があるグリーンホールでバッタリあった。あなたってそこそこギター弾けるらしいわね? だったら私達の部に来なさい。と半ば強制的に入部させられたのが、LMS(ライト・ミュージック・ソサエティ)という軽音楽部。そこで好きなロックでも一日中聴いて過ごせるなら、退屈な大学生活もマシになるかなと思った。

 が、LMSの慣習なのか、部長の趣味なのか、週に二回ほど昼休みにLMS全員で集まり、輪になってシングアウトするのだ。ちょっと待ってくれ! 冗談じゃない! そんなみんなで集まって仲良く歌ってられるか! 群れるのが苦手な僕にとっては、地獄の苦しみ以外の何ものでもない。一度だけI先輩の顔を立ててシングアウトに出たが、後はそのままフェイドアウトするかのように退部してしまった。根性なんてあの頃の僕には無縁のもの。ひたすら怠惰に過ごす事が信条のダメな学生だった。

『音叉』(髙見澤俊彦 著)

 そもそも、自分が何をしたいか? それすら曖昧な年頃。今と違って一日がとてつもなく長く感じたものだった。なんで英文科にしたんだ。何もかもが的外れな僕は第二外国語もなぜかフランス語を選択した。あれほどドイツ文学に傾倒していたはずなのに……後悔先に立たずだ。

 高校の頃はテスト範囲を勉強すれば、ある程度の点数は取れたし、授業もボンヤリ聞いているだけで、それなりに出来てしまった。しかし、大学はそうはいかない、自分で何を勉強するか決めることを強いられる。僕は教師になろうと思っていたので、必然的に教職課程を履修して英語の教師を目指すことになる。しかし英語の嫌いな英語教師なんてあり得ない。そんな先生に教えられる生徒は悲劇だ。

 ただ、英語が好きではないと言っても、英米文学自体は嫌いではなかった。

こちらのインタビューが掲載されているオール讀物 8月号

2018年8月号 / 7月21日発売 / 定価980円(本体907円)
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