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【特別対談】林真理子×髙見澤俊彦「小説から音が見えてくる」#3

【特別対談】林真理子×髙見澤俊彦「小説から音が見えてくる」#3

出典 : #オール讀物
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

同じ年に生まれ、同じ街で 青春時代を過ごした二人が語りあう あのころの東京、音楽、 そして小説のこと。


髙見澤 僕自身は元々ロックをやっていましたが、実はフォークのGAROが大好きだったんです。そうしたら、入った事務所が偶然にも同じで、GAROの弟分のような形でデビューしました。

『音叉』(髙見澤俊彦 著)

髙見澤 僕自身は元々ロックをやっていましたが、実はフォークのGAROが大好きだったんです。そうしたら、入った事務所が偶然にも同じで、GAROの弟分のような形でデビューしました。

 この小説のもう一つの魅力は、髙見澤さんでなくては書けない音楽のシーンがあること。演奏に集中すればするほど音が見えてくる感じがしました。どんどん燃えていくような描写は、やっぱり本職の方じゃないと書けない。

髙見澤 演奏シーンは一番書くのが難しかった。やはり自分で弾いちゃった方が早いし、それをリアルに文にするのは、ちょっと大変でした。

 無意識にやられていることを文章にするわけですからね。

髙見澤 そうですね。ギターを弾いて歌うのは長年やって来たことなのに、あらためて人に分からせるような形で客観性を持たせて、一人称で書くのは意外に面倒でした(笑)。

 でも、そこが本職としては読ませどころですもんね。

髙見澤 Eマイナーって書いたところで、どんな音か読者には分からないですから、それをどのように文章で表現するか。音を聞けば「あ、こんな感じか」って分かってもらえるんですけど。小説で表現するということは、デリケートなことなのだと改めて感じました。林さんの『野心のすすめ』に、「小説よりもエッセイのほうが、物書きは嘘を吐く」ってありましたが、それは言えている。

 小説のほうが遥かに正直な自分が出てしまうんですよね。
エッセイなんて、今こういう世の中だから、どんどん本当のことが書きづらくなってきた。とにかくいろいろと気をつけて書かないと「炎上」してしまう。

髙見澤 自分の思ったことと違う取り方をされてしまう時代ですよね。

 そうなんです。意味を取り違えられたような話もネットで拡散されてしまう。例えば「週刊文春」に書いたエッセイの一文が批判されたとしても、その元の記事なんて読んでない。

髙見澤 言葉の一部だけが広がっていく。

 最近も元アイドルの国会議員が、大阪の地震について「心よりお見舞い申し上げます」とツイートしたら、「安全なところから何を言ってんだ」と炎上したって。何が悪いの?って思いますよ。

髙見澤 ネット社会のおかしいところですよね。小説で描いた七〇年代なんてネットも携帯もない時代ですが、もっと人とのがりが大らかだったような……。今はLINEとかで、常に人とがってはいますけどね。

 あの頃は行けば会える場所があった。

髙見澤 そうでしたね。その場所に行くか、手紙か、固定電話か。

 私は友達の下宿によく訪ねていきましたね。夜ひとりで歩いて。いないと「銭湯に行ったのかな」とか思って、そばの公園でしばらく待っている。昔の学生はそんな夜遊びしないから、不在でも十時にはちゃんと帰ってくる。

髙見澤 あの頃は、待ち合わせしていなくても会えました。

単行本
音叉
髙見澤俊彦

定価:1,870円(税込)発売日:2018年07月13日

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