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【特別対談】林真理子×髙見澤俊彦「小説から音が見えてくる」#2

【特別対談】林真理子×髙見澤俊彦「小説から音が見えてくる」#2

オール讀物2018年8月号より

出典 : #オール讀物
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

同じ年に生まれ、同じ街で青春時代を過ごした二人が語りあうあのころの東京、音楽、そして小説のこと。オール讀物8月号に掲載された対談を3回にわけてお送りします。

あの頃の原宿、六本木

『音叉』(髙見澤俊彦 著)

 神宮前の交差点に向かって歩きながら、〈夜の原宿は東京とは思えないほど静かだ〉なんて一文が出てきますけど、今の人が読んだら「何これ、誤植?」と思うんじゃないですかね。

髙見澤 表参道も静かでしたからね。深夜は野良犬もうろうろしてました。

 鳥もチッチッチッて鳴いていて。そもそも竹下通りなんて、とんかつ屋が一軒あるだけで、夜は真っ暗だったんですから。子どもが縄跳びしていたのも覚えている。

髙見澤 でも、日中の神宮前あたりは華やかでした。小説にも書いた、セントラルアパートの喫茶店「レオン」なんて、十代の頃はなかなか入れず、前を通り過ぎるだけでしたね。

 私も同じ。はじめは入れませんでした。少し上の世代の業界人が集まっていたころですよね。

髙見澤 そうですね。「なんでそんな格好?」という派手な人が多かった。

 六本木の「パブ・カーディナル」も、私は入れなかったな。

髙見澤 小説では、雅彦が加奈子に連れられて二階のレストランに行きますが、実は、僕は二階に上ることができなくて、一階のパブしか知らないんですよ。今回は「大体こんな感じだろう」って想像して書きましたが。

 雅彦ってナイーブですよね。女性に対しても。

髙見澤 当時は意外にも、男の方が臆病なやつが多かったような印象があります。自分も含めてですけど。女の子の方が、やっぱりなにかと進んでいた。

 物語でも女の子がパブ・カーディナルに通い、ディスコの「ビブロス」で先輩の美人が踊っていたり。

髙見澤 僕もその手の店は女の子に連れて行ってもらいましたね。「入りづらいよ、こんなとこ」とか言いながら。でも、「大丈夫だよ、ただのディスコなんだから」って女の子に説得されて。

 レオンのそばに「フランセ」という洋菓子店がありませんでしたか。

髙見澤 ありました、ありました。

 私がフリーのコピーライターだったころ、フランセで糸井重里さんとお茶していたら、宇崎竜童さんが「いやー、久しぶり」って、糸井さんに話しかけたのをよく覚えている。セントラルアパートには『ルンルンを買っておうちに帰ろう』の装丁をしてくれた奥村靫正さんの事務所があって、遊びに行くと、アルバムのデザインを手がけていたYMOのメンバーがフラッと遊びに来たり。

髙見澤 すごい方々ですね。僕らは、セントラルアパートの地下の店によく行っていました。結構ロックっぽい衣装屋さんがあった。ラメのTシャツとか。

 一階にも洋服屋があって、暴力的に言葉遣いが悪い店員さんがいたことは覚えている。「いいんじゃない。それ似合うよ」みたいなことを言う(笑)。

髙見澤 中にはそんな人もいたんですね。とにかく「何この人?」って感じの雰囲気を持った人が多かった。

 セントラルアパートの管理人のおじさんなんて昼間からお酒飲んでた。

髙見澤 さすがにそれは知らなかったです(笑)。

 小説を書かれるときは、当時の原宿の地図なんて見直したりしましたか。

単行本
音叉
髙見澤俊彦

定価:1,870円(税込)発売日:2018年07月13日

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