同じ年に生まれ、同じ街で青春時代を過ごした二人が語りあうあのころの東京、音楽、そして小説のこと。オール讀物8月号に掲載された対談を3回にわけてお送りします。
はやしまりこ 1954年山梨県生まれ。86年に直木賞、95年に柴田錬三郎賞、98年に吉川英治文学賞を受賞。現在、日経新聞で「愉楽にて」連載中。
たかみざわとしひこ 1954年埼玉県生まれ。74年THE ALFEEでデビュー。最新ソロシングル「薔と月と太陽」が7月25日に発売。
林 いきなり言うのも恥ずかしいんですけど、お金持ちの友達に紹介されて、このところ高級なエステサロンに通っているんです。今日ちょうどこの対談の前にも立ち寄ったら、そこの先生が髙見澤さんの大ファンで。
髙見澤 ほんとうですか?
林 髙見澤さんに会うと彼女に言ったら、「なんで林さんが会うの!」って、もうびっくりしちゃって。小説を書かれたことも当然知っていて、「『音叉』でしょ。私『オール讀物』を毎回買って読んでたわよ」とか言って。
髙見澤 ありがとうございます。雑誌連載時から読んでくださった方がいて、ほんと嬉しいですね。
林 それにしても初めての小説で、これだけの長編。書かれてどうでした?
髙見澤 小説を書くことは密かな夢で、憧れはありました。でも、具体的にどうやって書いていいのかが分からない。子どもの頃から本を読むことは好きでしたが、どう話を展開していいのやら……そこで止まっていました。今回「オール」の編集者にオファーされて、「これで書かなかったら、もう一生書かないだろうな」と思って書き出してみました。
林 でも、一回が百枚(四百字換算)でしょう。
髙見澤 そうですね。曲作りでもそうなんですが、僕は締め切りがあるとなんか頑張れる。まずは、そこに向けて書いてみようという気持ちで。
林 私も若い頃「有名になりたい」という思いだけで作家を志して(笑)、いざ書き始めてみたけど、原稿用紙八枚しか書けなかったんですよ。
髙見澤 そうだったんですか?
林 それが二十四、五のころだと思います。最後は、やっとこさで二十枚くらい書いたのかな。「いきなり長編なんて無理だ」と思いましたよ。
デビュー作は、私もそうでしたけど大抵は自分のことを書く。それでいいと思うんです。一番の持ちネタである自分の青春を書くのは作家のスタート地点。『音叉』を読んで、私たちと同世代の村上龍さんのデビュー作『限りなく透明に近いブルー』を思い出しました。
髙見澤 ありがとうございます。あの本が出たのは僕がデビューした頃で、夢中で読んだ記憶があります。
林 『音叉』では主人公の雅彦たちがデビューするかどうかでウジウジしますよね。その最中に、メンバーの啓太が突然倒れてしまうけど、あれは実話?
髙見澤 いえいえ、創作です。書き始めたときは死んじゃうのかなと思いましたけど、あまりにかわいそうなので、生き返らせました(笑)。
林 すごいですね。ちゃんとストーリーを作っていらして。
髙見澤 編集の方に「書いているうちに人物が動き出しますよ」って、謎かけのような言い方をされていたんですが(笑)、本当に書いているうちに、だんだんと人物像が動いていきました。
林 ひとつ要望があるとすれば、女性とのシーンにまだ照れがある。それこそ龍さんみたいにグイグイいかないと(笑)。ファンもいるから、そこまで書けないのが辛いでしょうけど。
髙見澤 いやいや。そこはファンを意識したわけではなくて、自分の照れです。一回書いては、これはやり過ぎかなと意識的に書き直したりしました。
林 雅彦の周りにいる女性たちは、当時としてはすごく進んでいる。そんな彼女たちがどれだけ奔放か、ベッドの上の描写がもうちょっとあれば、彼女たちの魅力がもっと伝わったと思う。
髙見澤 勉強になります(笑)。「主人公の雅彦は自分ではない」と思いつつも、自分のたどってきた青春時代が出てくる。そこで自分と照らし合わせないようにすればするほど、逆に照れくさくなるのって何なんでしょうね。そもそも、出てくる女性はみな架空の人物なのに。
林 作家になる人って、そういう照れが薄い人。私も「よくあんなこと書けるね」って言われるけど、「え、なんで?」って思っちゃう。そういう鈍感さが作家には必要なんです。髙見澤さんもこの世界の仲間入りをしたからには「もう何でもいいや」ってならないと。
髙見澤 わかりました! 今日から照れを一枚ずつぎ取っていきます(笑)。
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