2018.09.05 インタビューほか

<伊集院静インタビュー> 『星月夜』から六年ぶりの推理小説

「オール讀物」編集部

『日傘を差す女』

『日傘を差す女』(伊集院静 著)

 推理小説への挑戦で話題となった『星月夜』から六年。ファン待望の推理小説、第二作が刊行された。

「高度経済成長から下り坂の時期の日本を書いたものに魅力的な小説が多い。松本清張さんも、まさにそういう変化が起きた時代の書き手でした。また、清張さんには『日本の黒い霧』のような昭和という時代の“光と影”を描くという仕事があった。私も、華やかな時代の“表と裏”を、残しておきたかった。それで、今回は、東京で失われつつある“花街”と、高度経済成長期の“集団就職”を、テーマに据えました。花柳界では、昔から、そこで働く女性を集めるためのルートがあり、とくに青森出身の人が多かったと聞いています。そういう女性たちの生き方も、物語の大切なモチーフになりました」

 物語は、クリスマスの朝、再開発が進む東京・永田町の古いビルの屋上で、老人の死体が発見されるところから始まる。老人は、和歌山県太地町の捕鯨船の伝説の砲手で、銛を胸に突き刺し血まみれで事切れていた。遺書もあることから、当初、自殺と見られていたが、やがて同じ銛を使って殺された死体がみつかり……。

「冒頭のシーンは、冬晴れの富士山がよく見える工事現場なのですが、今回、富士山を意識的に作品の中で出しています。富士山が見える最西端が、和歌山の那智勝浦。そこから太地町の捕鯨を、小説に取り入れることを思いつきました。捕鯨は、戦後の食糧難の頃には、日本人に貴重なタンパク源を供給した大事な産業でした。しかし、今では、取材で太地を訪れたときだって、海外のデモ隊が、抗議活動で町に繰り出すなど、産業としては、風前の灯火です」

 やがて、一連の事件は、警視庁で連続殺人事件と認定され、捜査が始まる。次第に事件関係者が見え隠れする、赤坂の花街。捜査を担当する警視庁捜査一課の草刈と立石は、赤坂、和歌山、青森、浅草と、日本各地を巡り、粘り強い捜査の結果、花街に生きた女性たちの身に起きた哀しき出来事に行き当たる。今作も、美しい「日本の原風景」とともに織りなされる切ない人間模様は、まさに著者の真骨頂だ。

「松本清張の『砂の器』、水上勉の『飢餓海峡』、大岡昇平の『事件』といった、推理小説という枠組だけでは語れない作品もたくさんあります。一方で、現代の一般小説を書く作家だからこそ、書ける推理小説というのも、また、どこかあるんじゃないかという思いが自分の中にあるんです」


いじゅういんしずか 山口県生まれ。一九八一年、『小説現代』に「皐月」を発表し、デビュー。九二年『受け月』で直木賞を受賞するなど受賞多数。二〇一六年、紫綬褒章受章。

こちらのインタビューが掲載されているオール讀物 9月号

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