数分後、オードブルとなるルッコラのサラダは一男の前に、その向かいにライスが盛られた皿が置かれた。店員がまどかに小さくウィンクすると、まどかも笑みを返す。今日最初の笑顔が、自分にではなく長身の店員に向けられたということに気落ちしながらナプキンを膝の上に広げる。すると、まどかは赤いリュックサックの中から“ドラえもん”が描かれたふりかけを取り出した。そのまま袋の口をあけると、ライスにかけて食べ始める。シャクシャクシャク。店内に流れるクラシック音楽のリズムに合わせるかのように、まどかの咀嚼(そしやく)音が響く。周りの着飾った客たちが、微笑みながらその姿を見る。迷惑そうに眉間にしわを寄せたり、軽蔑の眼差しを向ける客はおらず、それがかえって一男を居心地悪くさせた。
「まどか、最近どうだ?」
気分を少しでも変えようと、一男はサラダを頬張る。ドレッシング代わりにかかったオリーブオイルの香りが鼻にせり上がってくる。
「何が?」
まどかが、ふりかけごはんを頬張りながら顔を上げる。“おかか味”と書かれた派手なブルーの袋が、丁寧に並べられたナイフやフォークの横に置かれている。
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