
それは、奇想のはずの設定が次第に説得力を増してくるためである。その奇想を成立させるだけの綿密な背景やディテールの描きこみによって、ちょっと見には荒唐無稽なものが臨場感あふれる魅力的な物語へと変わる。それが月村了衛のエンターテインメントなのだ。
では本書の内容を見ていこう。
物語は、群馬県の小さな温泉町で中学校の体育教師をしている渋矢美晴が、PTAに吊るし上げられている場面から始まる。美晴は元ロックシンガーで言動が荒っぽいため、何かと槍玉にあげられがち。とてもコミカルな幕開けである。
ところが事態は急展開を見せる。その町に潜伏していた韓国の要人が謎の武装集団に拉致され、その現場を目撃した中学生の秋来祐太朗と神田麻衣が拘束されてしまったのだ。
そこで立ち上がったのが祐太朗の母、律子である。温泉旅館の清掃員をしながら母ひとり子ひとりの家庭を守ってきた律子だったが、実はかつて警視庁公安部に所属したエリート捜査官。しかもFBIに派遣され戦術作戦課人質対応部隊の訓練で最高の成績を残した、抜群の戦闘能力の持ち主なのだ。ここで、荒唐無稽に思えた設定にひとつの裏付けが与えられる。律子は現場の死体から奪った銃と自宅の台所から持ち出した包丁を携え、偶然行き合わせた美晴とともに、追跡を開始した――。
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