- 2018.10.31
- 書評
荒唐無稽に見える設定をリアルに描く、著者の腕に括目せよ!
文:大矢博子 (書評家)
『ガンルージュ』(月村了衛 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
……いや待てよ、日常と非日常のギャップ、という項目だけは留保をつけておこう。平和でありふれた日常のすぐそばで、実は秘密裏に国の上の方だけで処理されるような案件が起きているというのは、むしろリアルなのではないか。そう思ってゾクリとした。最も荒唐無稽に見えたことが、実は最もリアルかもしれないという逆転の構図。エキサイティングで痛快な冒険活劇を読んだあとに残る、わずかな不安と恐怖。もしかしたら著者が本書に仕込んだ最大の〈ギャップ〉はこれかもしれない。
本稿の冒頭に書いたことを思い出していただきたい。荒唐無稽に見えた設定をリアルに、説得力を持たせて描くのが月村了衛だ。番頭とコルトしかり、産休代用教員とテロリストしかり。どれもギャップのあるものを融合させるところから始まっている。本書にはその月村了衛のテクニックが、構造から設定からキャラクターから展開から、とにかく細部に到るまで十全に注ぎ込まれているのだ。面白くないはずがない。
本書単行本刊行時のインタビューによれば、本書の続編の構想も(漠然とだが)あるという。戦闘マシーンの主婦と元ロックシンガーの教師。ギャップだらけの最高のコンビに再会できる日を楽しみに待ちたい。
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