インタビューほか

現実の手触りと小説の嘘――横浜をめぐって 堂場瞬一×伊東潤【後編】

「別冊文藝春秋」編集部

『横浜1963』 (伊東潤 著)

現実の手触りと小説の嘘――横浜をめぐって 堂場瞬一×伊東潤【後編】

前編より続く

小説にとって、リアリティとは何か――初の現代小説『横浜1963』を上梓した歴史作家と警察小説の第一人者が創作の原点を明かす

人生の折り返し地点を過ぎて自分の生きた時代を描こうと思った

『横浜1963』 (伊東潤 著)横浜港で女性の全裸死体が引き上げられ、米軍の関与が疑われる。ハーフの警察官・ソニー沢田と日系三世の軍人・ショーン坂口が、ともに真犯人追及に乗り出す。互いの境遇に共感する二人が、捜査の果てにたどり着いた驚愕の真実とは? 人気歴史小説家が挑んだ、初の警察小説!

伊東 『横浜1963』は六〇年代の横浜が舞台ですが、堂場さんの百冊目の著作となる『Killers』も一九六二年の渋谷から物語がスタートしていますよね。

堂場 五十歳を過ぎたころから、自分の生きてきた時代を振り返りつつ書いてみようという気持ちが芽生え始めたんです。五十を超えると、人生の折り返し地点を通過したなって感覚はないですか。

伊東 ありますね。もう老境ですよ(笑)。

堂場 この歳になると、自分の過去をちゃんと知りたいという気持ちが出てくるんでしょうね。『Killers』を書いたときは、五十年前の渋谷の様子なんて全然知らなかったけれど、新しい発見も多くて、自分が育った街でもないのに、なぜか渋谷への好奇心が湧きあがってきました。

伊東 自分の生まれた頃のことは特に気になりますよね。

堂場 もしかしたらそれがノスタルジーなのかもしれません。

伊東 僕は歴史小説を中心に書いてきましたが、徐々に現代に近づいてきました。一方、堂場さんは現代から過去にさかのぼっている。まったく別の分野の小説家が、自分の生まれた一九六〇年代でミートするのは興味深いですね。やはりお互いのルーツだからですかね。

堂場 未来は共有できないけど、ある程度年齢がいけば、過去は他人と共有することができますからね。

伊東 そこが歴史を小説にする上での強味の一つだと考えています。

堂場 ただ、五十年前くらいの近過去は、逆に書くのが難しい。当時のことを知っている人がまだ生きているから、こちらの解釈で書いても、まだそれと違った事実がでてくる可能性もあります。歴史資料や記録を読み込んで書くには、まだ新しすぎて微妙な時期ですよね。

伊東 仰せの通りですね。その点は気を遣いますが、全く史実に反していなければ、感じ方は人それぞれなので気になりません。小説はそもそも虚構なので、自分のカバーできる範囲で史実をフォローしていれば、それで十分かな、と気楽に考えています。

堂場 えっ、そうなんですか。

伊東 結局、史料に囚われたらきりがないんですよ。でも意地がありますから、こちらも調べられるだけ調べます。今のところ、大きな失策はありませんが、いつもビクビクしながら仕事をしています(笑)。

堂場 私にはとてもじゃないけどできそうにありません。昭和史のような近過去だと、映像も残っているのでわかりやすい。ほぼ文献だけで解釈する歴史作家の苦労は、想像を絶します。

【次ページ】主人公が嫌なやつの方が小説を読んだ実感がある

横浜1963
伊東潤・著

定価:本体1,500円+税 発売日:2016年06月08日

詳しい内容はこちら

別冊文藝春秋 電子版10号(通巻326号/2016年11月号)

定価:※各書店サイトで確認してください
発売日:2016年10月20日

詳しい内容はこちら



こちらもおすすめ
インタビューほか現実の手触りと小説の嘘――横浜をめぐって 堂場瞬一×伊東潤【前編】(2016.11.07)
書評取り組むとなったら失敗は許されない。デビュー10周年で挑戦する現代物ミステリー(2016.06.29)
インタビューほか秀吉対利休、真の勝者は?(2016.07.14)
インタビューほか秀吉対利休、真の勝者は?(2016.01.07)
インタビューほか新しい信長像――そのカリスマと狂気(2016.03.14)
書評野心という魔物にとりつかれ、人生を変容させていく信長の家臣たちを描く(2016.03.11)
書評団塊世代の生きざまを明るみに出す 濃密な人間ドラマ(2015.07.13)
インタビューほか特別対談 池田克彦(第88代警視総監)×堂場瞬一(2014.10.10)